【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ8)

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　──翌朝。目覚めは良い方、というよりも睡眠を必要としないために地蔵は瞑想しつつ日が昇る時間帯までじっとしていた。
　昨晩はエネルギー切れを起こして動けなくなってしまった景を沢子が回収していったため、部屋は広々と使用できた地蔵。布団は睡眠を必要しないため辞退し、代わりに座布団を二枚借りたのだ。
　座布団の上で目を瞑り、無の境地に立とうと極力思考を手放すのだが考えないようにと考えている時点で無の境地に立つのはまだまだである。
　時刻としては六時。地蔵は古びたリュックを背負うと部屋を出ていた。相変わらず悲鳴を上げ続けている床にそろそろ抜けるのではないかという心配があるが、そういうこともなく。地蔵は沢子の元へと訪れていた。

「沢子はん沢子はん」
「はい、おはようございます。お早いですねたたり地蔵さん」
「おはようさん。沢子はんもえらい早うに起きてはりますなぁ」

　沢子がいたのは煩い程鳴いているセミの声が聞こえてくるボロ家の一階であった。まるで地蔵が来ることをわかっていたように玄関口に立っており、手には角2の茶封筒が一つ。おそらく昨日に言っていたDランクの依頼の"空き部屋の気配"の資料とその場所までの地図が入っているのだろう。

「こちらが依頼の内容と地図です。解決となればいつも通り報酬をお渡しいたしますので」
「……ちなみに沢子はん、報酬をもうちょっとだけ豪勢に、できれば現金にしてほしいっていう頼みは難しいですか？」
「うーん、この依頼はYマートの割引券が妥当なので。そうですね、今度おまんじゅうを差し上げてますので我慢していただけますか？」
「それは沢子はんの手作り？」
「いいえ、Yマートに売っているおまんじゅうです」

　素敵な笑みでばっさりと切り捨てた沢子に、がっくりと肩を落とした地蔵。美人が作るお菓子は絶対美味しい、という謎の期待を抱いていたのだが見事に玉砕。
　生まれも育ちも関西ゆえ、何事にも少し交渉しがち。言うのはタダなのだ。それで値引いてもらえたり、多く報酬をもらえたりするのなら万々歳。まぁ今回は生憎失敗してしまったが。
　差し出された茶封筒を受け取った地蔵はその場で中身を確認する。入っていたのは予想通り、今回受ける依頼の資料とおそらく沢子の手書きの地図が一枚ずつ。それとその部屋の鍵らしきものが一つ。地図を見る限りボロ家からそれほど離れてもいないマンションの一室らしい。