【不可抗力です、お嬢様】 ページ7
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九条家に修行と称して投げ込まれたのが、今から約十年前。
俺もまだ十六で、Aに至っては数ヵ月前に小学校に入学したばかりの頃だった。
学生として部活や勉強に励んでいた俺だったが、執事の修行をさせられるようになってからは殆ど屋敷に引きこもった。
友達とも会えないし、好きだったクイズの勉強もお預け。
けれど、自分の家系は執事という、様々なスキルが必ず必要となる職業に就くことが将来的に決まっている。
我慢するしかなかった。
執事として一人前になることが、俺の家では絶対条件だったから。
「今じゃすっかり慣れちまってるけど」
屋敷の窓を拭きながら、ふぅっと息を吐き出す。
こうやって執事続けられてんのも、ある意味Aのお陰なんだよな。
多分俺はあいつが居なければ、今頃親に反抗して家を出ていただろう。
今じゃあんな生意気娘に育ちやがったけど。
「伊沢ー。今お嬢様お風呂行ったから、後で着替え持ってってくれない?俺まだ他のすることあって」
「あー了解です。これ終わったら行きます」
「ありがと。助かる」
近くで花瓶の花を変えていた福良さんに着替えを頼まれ、二つ返事で了承する。
福良さんもまた、この屋敷に勤め始めてから長い。
彼の場合は俺のように家系がどうのこうのではなく、身寄りが無くなってここの主人に引き取られたらしいが。
詳しいことは俺もあまり知らない。
俺達は、あくまでも執事だ。
執事は主に尽くすのが務め。
互いのことを深く知らなくとも、俺たちの任務にはなんら影響はない。
だからこそ、皆あまり他の執事に深入りはしないのだ。
『貴方ももっと、自由に生きなさい。
家庭が世界の全てだなんて、そんな馬鹿げた話は無いわ』
この屋敷で他人の心にズケズケと踏み込んでくるのは、後にも先にもあいつ一人だけだ。
福良さんと別れ、バケツと雑巾を元の場所に戻してから、早速Aの部屋に向かう。
あいつの部屋はとにかく物が多い。
各部屋に備え付けられている簡易キッチンを書物で埋める俺が言えた義理ではないが、それに匹敵するぐらいには物が溢れ返っている。
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白菜(プロフ) - あるてぃめっとさん» コメントありがとうございます!この作品のcssは自作ですね。フォントは『ほのか丸ゴシック』を使用させて頂いてます。参考にしていただければ幸いです! (2021年3月30日 17時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
あるてぃめっと - こちらの作品でははじめまして(といっても覚えてないと思いますが…)今回も素敵な文章をありがとうございます。それともう1つ素敵なcssだなと思い…自作でしょうか?紹介がないので…もしよろしければ、使っているフォントを教えていただけないでしょうか? (2021年3月30日 16時) (レス) id: 037db07d8a (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - Rukaさん» 私も書きながら「この関係性が尊いと思える感じにしたい」と思ってるので、そう言っていただけると嬉しいです!お嬢があんな子だからきっとこんな関係性が出来たんでしょうね。これからも彼らをほほえましい気持ちで見ていただけたら嬉しいです(笑) (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - SALTさん» コメントありがとうございます!普段は文章詰め詰め野郎なので、今回の話は確かに読みやすいかもしれません(笑)応援ありがとうございます!ほんとにマイペースですが、これからもちょこちょこ更新していけれたらなと思います! (2021年3月29日 22時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
Ruka(プロフ) - なんというか、お互い憎まれ口を叩きながらもお互いに好いているような関係が本当に好きです。お嬢はいつもこんなに暖かい空間にいるんだと思うと、なんだか微笑ましくなってしまいました笑 (2021年3月29日 16時) (レス) id: 323f90024b (このIDを非表示/違反報告)
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