鬼の前に降る流れ星 四 ページ44
道信は自分が立派な人間ではないと否定し、変わらず人斬りの鬼であると語った。
「宝に触れぬ限り鬼は手を出しませんよ。あの子たちを護るためなら何でもやりますがね」
子供たちを見つめて言う道信に、銀時は笑い声を上げた。
「鬼がそんなこと言うかよ。アンタはもう、立派な人の親だ」
「……最初に子供を拾ったのも慈悲などという美しい心ではない。自分の中の罪悪感を少しでも拭いたかっただけなんだ」
道信が目を伏せ自責するように言えば、銀時は子供をあやしながら笑う。
「そんなモンだけでやっていけるほど、子を育てるのはヤワじゃねーよ」
道信は驚いて口を開き、言葉を失う。
「なんかあったらウチにこい。サービスするぜ」
銀時は男の子の額に万事屋の名刺を貼り付けた。
「おい帰るぞ……って、何やってんだA」
「え、えへへ。なんか懐かれちゃって……」
Aの方を見れば大勢の子に抱きつかれたり膝に乗られたり、団子状態で動けなくなっていた。
銀時はため息をついて彼女の方に行き子供たちを剥がしていく。
「じゃあな」
銀時たちが背を向けて歩いていき、子供たちはそれを見送る。
「変な奴ら。そーいやウチに客が来るのって初めてだね、先生」
男の子が言うと、道信は少し笑って返した。
「そーだな……最初で最後の客人だ」
少しして、何故かAだけが戻ってきた。
子供たちは嬉しそうにしていたが、道信は驚いて彼女を見る。
「？ 忘れ物ですか？」
「……はい。あなたにこれを、お渡ししておこうかと」
Aは微笑んで、懐からいつもの小刀を出して道信の手に渡した。
「これは……」
「昔から使っている私の愛器です。お守りとして持っておいてください」
「いや、ですが」
子供に聞かれないためだろう、Aは顔を道信の耳元にやる。
「貴方は人斬りの鬼道丸。その鬼は楽な生を歩めないはずです……だから、私がその道を作ります。私が貴方を、鬼を護る外道となります」
「！そんな事をしてあなたに何の得が……」
「得ですか。そうですね……あの子たちが、悲しむ姿を見なくて済むこと、ですかね」
Aは後ろで楽しそうに遊んでいる子供たちを見て目を細める。
「それにこれは、私の自己満足です」
「自己満足……？」
「ええ。あの違法闘技場を知らなかった、無知な私への償い……ただの罪悪感を払拭するための、利己的な行動ですよ」
道信は薄く影の入った彼女の表情と今の自分を重ねてしまう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 152人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：刹那＊桜 | 作成日時：2022年8月29日 18時
