鬼の前に降る流れ星 二 ページ42
沖田はAの耳元に口を近づけて、ある事を伝える。
その内容に彼女は目を見開いた。
――今からアンタに見せるものは、アンタの好かねェものかも知れやせん。けど現実に起こってる事をアンタに見て、考えて、俺の手助けをほしい。
その言葉におふざけは全くなく、沖田は真剣な顔つきをしていた。
「……わかったよ。沖田君」
そんな彼に応えるように、Aも真面目な顔つきで返した。
路地を抜けた先で、人が集まっており歓声が聞こえる。
その者たちの目線の先は、塀で囲われた競技場のようなものがあった。
「こいつァ、地下闘技場か?」
銀時が声をもらし、沖田がこの場所について説明する。
そこは「煉獄関」と呼ばれる場所で
正真正銘――殺し合いの場だった。
今も銀時たちの前のリングで、侍が鬼の仮面の男に斬り殺された。
『勝者、鬼道丸!!』
「ッ……」
審判の声を皮切りに大きな歓声が響く。
Aは人が殺されるのを目の当たりにして顔を青くした。
銀時がその様子を見て彼女の手を握った。
「大丈夫か」
「え、あ……う、うん」
「……はあ。無理はするなよ」
Aは何とか表情を取り繕うが、繕いきれていないその顔に銀時はため息をつき、しっかり手を握り直す。
「……」
隣で沖田はそんな二人を見て、胸中に腫れ物を抱いていた。
「こんな時代に侍は稼ぎ口を探すのも大変だ。命知らずの浪人どもが金欲しさに斬り合いを演じるんでさァ」
真剣を使っての斬り合いはそう見られるものではない。
そこに博打要素が加われば、たちまち皆が飛びつく。
「趣味のいい見せ物だなァおい」
銀時は眉を寄せて言った。
胸糞悪いものを見せられて神楽が、寝れなくなったらどうするんだと沖田の胸ぐらを掴んでキレていた。
「……こんなのがあるなんて、知らなかった」
幕府で勤めているのに、とAは申し訳なさを感じる。
しかし沖田は知らなかった事を咎めるようなことはしない。
「当然でさァ。アンタは善よりの人間だ。奴らは、そんな人に気づかれるほど甘い警備にゃしちゃいませんぜ」
明らかに違法なこの闘技場を役人見逃していいのかと、新八は沖田をジト目で見る。
しかし幕府も絡んでいるのか、下手に動けば真選組も潰されかねない。
沖田の話で幕府絡みと聞いてAは驚いていた。
そうなると役人だからこそ動けなくなる。
そこで沖田は、自由に動ける銀時たちを頼ろうとしたのである。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年8月29日 18時