屋台で買って食べ歩きするなら人混みの中は気をつけろ 六 ページ18
最初は元気でガキっぽい、おかしな女という印象だった。
毎日こそ来れないようだったが、Aは二日に一度くらい頻繁に俺のところに来ていた。
なるべく外に漏れない音でチマチマと作業をやっているが、工場の中に入れば耳がおかしくなるくらい騒音が響くものだ。
そんなとこにアイツは何度も来る。
『オメー、暇なのか』
『え? あははっ! ひまー、なのかな? 源外さん優しいから、会いにきたくなるんだーっ』
二十代らしいが、あどけなさが子供っぽくて……娘ができたみたいだった。
そんな子の近くで、俺は人を殺めようとしている。
A……この老いぼれはどうやら、優しくねェみてーだ。
源外は機械の三郎に触れ、憂いを帯びた目で将軍のいるヤグラを見遣った。
「トシ、総悟どころかAさんまでどっか行って帰ってこないぞ」
近藤は将軍のいるヤグラの下で腕を組んで言う。
土方は近くで山崎にキレて彼を足蹴りにしていて、隣で戦が笑ってそれをみていた。
というのも、将軍から指示を受けてたこ焼きを買いに行った山崎がつまみ食いしていていたのである。
「Aは頭ノー天気じゃねーからサボってはいないはずだが」
「アイツがサボるはずねーだろ」
土方に続いて戦は不快そうに言った。
「ごめん遅くなっちゃったー!!」
遠くからAの声が聞こえてきて近藤は笑って迎える。
「噂をすれば。おかえ……」
近藤たちがAの方を見れば彼女は、たこ焼きやらリンゴ飴やら屋台の食品を大量に抱えて走ってきていた。
「テメーも遊んでんじゃねェかァァ!! 俺の信用を返せ!!」
「えっ!? な、何でキレてるの!? 将軍様にお使い頼まれたから寄ってきただけだよっ!? あ、でもたこ焼きは他の人に頼んであるって言ってたから被っちゃったかも」
土方にキレられAは困惑しながらも説明して。
それを聞いて土方と近藤、戦は、先ほど山崎がつまみ食いして空になったたこ焼きの箱を見る。
「よくやったA!」
「さすがは俺の妹だな!」
「ほんと助かったよAさん!!」
「え、何この瞬足の手のひら返し」
Aは少し拗ねながらもツッコんだ。
そうしている間に、打ち上がる衝撃音と破裂音がして空に花火が上がった。
『!』
「お、始まったな。江戸一番のカラクリ技師、平賀源外の見せ物が」
空の上の花に笑顔を浮かべる近藤のそばでAは、舞台で三郎と共に花火を打つ源外に微笑んだ。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年8月29日 18時