黒波 二 ページ35
「私の一族を絶滅させておきながら、今まで私のそばで笑って、利用してきたんだ」
「待て、何のことだ」
「とぼけないで。私の両親を殺した銀ちゃんと手を組んで、私を騙して絆して利用していたくせに」
「！！お前……」
桂はAの発言に目を見開いた。
彼女の両親がなぜ死んだのか、
殺した者が誰なのか、
一番はっきり知っているのは、その惨状を目の前で見た彼女自身である。
しかしそのAが、殺したのは銀時だと言い放ったのである。
昔から親のことも過去のこともほとんど口に出さなかった彼女が
言いたいことも思うことも沢山あるだろうに、信頼した幼馴染にすら心の奥を吐き出さない彼女が
冗談でもそんなことを言うはずがない
「貴様……」
ギリッと桂は奥歯を噛んだ
「Aに……なんて事を、言わせているんだ」
桂は昔の、ある日を思い返す
寒い冬の雪がちらつく中、Aは墓地で二つ並んだ墓石の前で立っていた
それは他でもない、彼女の両親の墓である
誰にも言わず、Aは定期的に墓参りをしていた
それを知っていたのは桂だけだった。
桂が墓に来てもAは驚きはせず、うつむいたまま何故か視線を彼に向けなかった。
『A……お前は一人で抱え込みすぎている。気持ちを少しでも外に出さねばいつか壊れるぞ……少しで良い。俺に、話してくれないか』
『……ごめん』
返ってきたのは小さな声だけだった。
Aはグッと拳を握る。
『ほんとの私は、いい人なんかじゃないんだ。「あの時」の話をしてしまえば、私は私じゃなくなる気がして……怖いんだ』
『辛くたって、言いたくないんだ。話せないんだ。自分で何となくわかる……その話をしたら私は、確実にーー殺意に飲まれる』
『！』
顔が上げられて見えた赤い目には、憎悪と殺意がすぐそこまであふれ出ていた。
桂は彼女のそんな表情など見たことがなかった
彼女が今までずっと ひた隠しにしてきた本心
敬愛する松陽の前ですら出さなかったもの
「貴様……貴様のやっていることは、Aの押さえ込んだ思いを踏みにじる行為だ」
桂は礫星を前に拳を握る。
脳内に浮かぶは、同じく拳を握って墓に立つ幼い頃の彼女で
その手には爪が食い込み血がにじんでいて
その赤い目は
『例えどんな状況で、何を思おうと……私は、自分の恨みで誰かを傷つけるようなことはしたくない』
殺意と悲哀の ない混ぜになった奇妙な瞳だった
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作者名：刹那＊桜 | 作成日時：2023年2月26日 20時
