船弾 六 ページ21
わしは惚れた女に、ある問いかけをされたことがある。
『坂本君。私がもし敵方になったら、坂本君はどうする?』
そんな問いも、そんな状況も、あり得るはずがなか。
だってAは、誰よりも他人を護ろうとする子じゃき。
敵でも、味方でもこの子は誰にでも手を出す子じゃ。
自分に死を与えてくる相手にすら、生の選択肢を渡すような奴じゃ。
でもまあ、答えるとするのなら
『……ほうじゃな……わしは』
『わしは、Aの腕を斬るかもしれんな』
Aは驚いた顔をしちょった。
けど、すぐにその顔は笑みに染まる。
『そっか』
Aはそれだけ、短く返してきた。
『……いや、何じゃその反応。もうちょっと動揺せんか。わし今、腕切るちゅーたぞ。話聞いとったがか?』
『いや、だって……私が欲しかった回答そのまんまだったから。ちょっと安心しちゃった』
『え……』
Aの発言にこっちが動揺させられてしもうた。
『坂本君。お願いがあるの』
『坂本君にしか、できないお願いなんだ』
Aは目を伏せて、願いを口にした。
『もし私が、誰かを護ること以外で他人に刃を向けることがあったなら、そのときは……』
ーー私の手足を断ち切ってほしいの
それは、残酷な願いだった。
おおよそ、幼馴染に頼むようなことじゃなか。
『ホントは、「そうなったら私を殺しても良い」って言わなきゃいけないところかもしれないんだけどね』
まだ、とAは小さく呟いた
『まだ……死にたくないんだ』
『!』
顔を上げたAの赤い瞳は、涙で揺らいでいた
『家族が亡くなった時に死んでも良いって思ってたはずなのに、気づいたら周りの温もりが心地良すぎて……死にたくないって思っちゃうんだ』
『だから……殺さずに、私を止めてほしいの』
『その状況って人襲ってるのに、生かしておけとか……その、酷い願いだよね』
Aはうつむいて手を組んだ
少し沈黙が生まれて、冷たい風がわしらの体を撫でていく
『……手足を斬る、か』
(好きな女の手足を、俺に奪えっちゅーことかA)
『それはまた随分と……むごい頼みじゃ』
わしが小さく呟けば
『……ごめん』
Aは怒られると思ってか、うつむいた。
じゃが
『おまんの頼みなら、聞いちゃる』
『え……』
Aは驚いてわしの方を見る。
『わしもお前が死ぬのは、嫌じゃきにの』
赤い目を泣きはらす彼女に、ニィッと笑顔を向けてやった。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年2月26日 20時