船弾 五 ページ20
「ッ、A!話を聞け!そいつは」
「無駄じゃ、坂本」
陸奥はこれ以上言うと余計にAを刺激しかねないからか、坂本を止めた。
「記憶の根っこから変えられちょるんじゃったら、いくら言ったところで反応は変わらん。逆にこっちが殺意を向けられるぞ」
陸奥は横目で後ろの壁に刺さった刀を見る。
その刀は壁に大きく亀裂をつくり、もう少し力が入っていれば壁を崩壊できる状況だった。
「残念やけど、お前らも処分することになってんねん……A、行けるか?」
月星がAを気遣うように問えば、彼女は少し間が空いて
「……月星の言うことなら、仕方ないね」
赤い瞳が黒く濁ってそう答えた。
Aが懐から小刀を出すと同時に、陸奥が銃を構える。
「!待て陸奥ッ!!」
坂本の止めようとする声と銃声が同時に響く。
陸奥の発撃した弾はAに直進した。
しかしAはそれを即座に避けて地を踏み込みーー
陸奥が瞬きする間もなく、次の瞬間には
Aは陸奥の目の前にいた。
「え……」
それは、動きが見えないどころの話ではない。
自分と相手の生きている時間に差があるのではないかと
時間停止でもされたのではないかと思うほどの一瞬もない間で
下からAの小刀が振り上がる。
「陸奥ッッ!!!」
紫の線が刻まれた小刀は
陸奥の喉元に喰らい付いた。
ーー坂本君
ーーもし私が敵方になったら、もし人を傷つけるようなことがあったら
ーーもし私が……坂本君の大事な仲間を殺そうとしたら
ーー坂本君は、どうする?
パァンパァンと乾いた発砲音が二回、鳴り響いた。
「!!」
陸奥の視界には赤い血が飛び散る。
その光景を焼きつけるように、彼女の目が見開かれた。
「さか、もと……」
その視線の先にあったのは
自分の上官が、彼の最も愛する者に向けて発砲している姿だった。
坂本が撃ったのは、Aの右手と左足だった。
Aは驚き、バランスを崩して後ろにふらつく。
「お、オイオイ。ほんまに撃ちよったわ」
月星は驚きながらも顔を引きつらせた。
坂本は白煙を吹く銃を構えたまま、口を開いた。
「わしは……Aの気持ちを尊重する男になりたい」
「じゃき……これがわしの決断じゃ」
坂本の青い瞳は、憎悪にも殺意にものまれていない。
ただまっすぐに前を見て輝く、
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年2月26日 20時