『ワールドトリガー』私の彼氏は黒トリガー (ページ42)

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第40話ページ42

「ハローハロー、いらっしゃいませ！一名様でよろしいですか？」

フリルがたっぷりとあしらわれたピンク色のウエイトレスが、来店した女性にそう問いかける。

女性は微笑むことでそれに応じ、案内されるまま窓際のカウンター席に腰かけた。

一通りメニューに目を通し、注文を伺いに来たウエイトレスにコーヒーを頼む。

「コーヒーだけでよろしいのですか？お客様？」

小首を傾げてあざとく尋ねてくるウエイトレス。

女性はため息をつきながら優しく答えた。

「今日は甘いもの、食べたい気分じゃないのよ・・・

　というか、いつまで接客モード続けるつもりなの？桃葉ちゃん」

一瞬驚いたような顔をしてから、敵わないなぁと笑うウエイトレス。

彼女の名は、桐谷桃葉。このカフェ、“REFRAIN(リフレイン)”の一人娘だ。

勉強嫌いの彼女は、実家を継ぐことで進学から逃れようと目論んでいた。

そんな彼女が実はボーダーの関係者であることは、一部の人間しか知らない秘密事項。

いま彼女と相対している女性・・・楓もその“知っている人間”のうちの一人だ。

「・・・いつも言ってるじゃないですか。相談なら休憩時間にしてくださいって」

「ごめんね。本部からここに来ようとすると、何故かいくら急いでもこの時間になっちゃうの」

そうだ、この人とんでもない方向音痴だった。

的外れな恨み言を投げかけていたことに気づいた桃葉が頭を抱える。

「・・・不思議です。よくそんなのでオペレーターやってられますよね」

「本当、私も不思議なのよ。自分では迷ってるつもりなんてないのにね」

精一杯の言葉の棘も、楓にかかればゴム製の弾と同じ。

淡く微笑む楓の隣、トレイを前抱きにして立つ桃葉は引きつり笑いを浮かべていた。

なんなんだ。この人は一体なんなんだ。

言い知れない恐怖が桃葉の頭の中をぐるぐると回る。

ボーダー特殊任務部隊オペレーター、十六夜楓。

才能あふれる人間を好み、“人の心を読む”というサイドエフェクトを持つ女性。

しかし本人に言わせればその能力は決して万能なものではなく、いくつか欠点もあるらしい。

そのうちの一つ、最も根本的な欠点が、“相手がトリオン体でないと効果がない”こと。

だからいま桃葉が感じている恐怖や焦燥は、楓には伝わっていない。

それはお互いにとって幸か不幸か。

「・・・じゃ、じゃあコーヒーお持ちしますね！」

桃葉は逃げるようにそそくさと厨房に戻っていった。