『ワールドトリガー』私の彼氏は黒トリガー (ページ33)

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第31話ページ33

その日の夜。

「あんの、バカ・・・っ！」

本日二回目のその台詞を吐きながら、紗夜は競歩のような速度で会議室へと向かっていた。

「私ちゃんとメールしただろ！なんでどこにもいないんだあいつ！」

「会議に遅れるなんてよくあることじゃない。そんなに怒ってると身がもたないわよ？」

「だって！！・・・環は真面目に会議に出てくるのに、後輩に示しがつかないじゃないか」

頭に血が上っているのを自覚した紗夜が、少しだけ歩くスピードを緩める。

楓はそれに合わせるかのように、紗夜の二歩後を歩いていた。

「今日だって、非番なのに会議のためだけに出てくるんだろう？環のほうがよほど真面目だ」

「師匠としては、生真面目すぎて困っちゃうくらいなんだけどねぇ・・・」

Aと足して二で割りたいわ、と楓が苦笑する。

それに対して紗夜は、楓に茶化すなという視線を送った。

「隊長が任務内容を承認しなければ、私たちは動くこともできない。

　それなのに、あいつはいつもいつも会議に遅れたり忘れたり・・・不真面目すぎるんだ」

「・・・それが、うちの隊長さんの優しいところなのかもしれないわね」

楓の意味深な言葉を耳にして、紗夜が足を止めた。

「・・・どういうことだ」

切れかけの蛍光灯が点滅している薄暗い廊下。

窓もない無機質なその空間に、紗夜の冷えた声が響いた。

「そのままの意味よ。命令の承認は隊長であるAにしかできない。

　裏を返せばそれは、Aが承認すれば私たちは従うしかない、ということになるわ。

　Aはそれをわかっていて、私たちに“考える時間”をくれているのよ」

そう思うことにしてるんだけど、どう？

そう言って優しく微笑む楓の目を見ながら、紗夜はしばらく呆けた顔を浮かべていた。

やがて我に返ったのか、首をふるふると振っていつもの冷静な紗夜に戻る。

「そう、だな。・・・うん。そういうことにしておこう」

特殊任務部隊はその性質上、危険な任務を任されることが多い。

世間に知られてはいけないような後ろ暗い任務だって、かなり頻繁に回ってくる。

もちろん命の保証はない。いつどこで死んだって、文句は言えないのだ。

だからこそ、隊長の資質と隊員の素質、その二点が重要視されていた。

自分は選ばれた隊員であり、Aは選ばれた隊長なのだ。

考えを改めて再び歩き出した紗夜の足は、不思議と先程よりも軽かった。