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喜ぶ俺を見た後、おばあちゃんはゆっくり話題を変えた。
「坂田くんは…私たちについては何か知ってる?」
「………星詠み、のことですか?」
思い当たるものはそれしか無かったものの、恐る恐る聞くと、
おばあちゃんはニッコリと頷いた。
そこから、星詠みの話を俺に聞かせてくれた。
『織姫』と『彦星』の話も。
「そのうち、…あの子が望めば、Aが織姫になる日が来るわ。その時は、彦星が隣に居てくれるはず」
(………Aちゃん、か)
最初のうちは、笑顔が可愛らしくて、控えめな女の子(と言っても多分同い年くらい)、という印象だった。
彼女は訪問日にはなるべく仕事を休むようにしているらしく、会う機会も多かった。
先生の話は真剣に聴いてくれるし、俺の雑談にもよく付き合ってくれた。
近所の人から聞く彼女の評判はすごく良かったし、男が放っておかないタイプやと思う。
俺やって、ええ子やなあと思っていたし、…恋愛感情があるかというと分からんけど…、なんとなく、ええなあ、とは思う。
「Aちゃんええ子やし、守りたい男なんて沢山立候補する奴が居りそうですね」
(………ん?)
自分で言ったのに、その言葉にモヤっとした。
この先、訪問に来る時に、Aちゃんが彼氏もしくは旦那とニコニコしながら出迎えてきたら、俺は平気でいられるんだろうか。
「そうね…」
モヤモヤしている俺を見て、おばあちゃんは何か言いたげだったけど、曖昧に笑顔を見せただけだった。
「ただいまー…あれ!?」
玄関の引き戸が開く音と同時に、今しがた話題になっていたAちゃんが帰ってきた。
今日は仕事なのかと思っていたけど、出かけていただけらしい。
「あれ!坂田さん!?私、訪問時間勘違いしちゃってた…!すみません!ん?でも坂田さんだけ?車もなかったし!先生は?」
珍しく慌てた様子のAちゃんが可愛らしくて笑いながら、忘れ物を取りに行った先生のことを伝えた。
ここまでが、前回の訪問時の話。
そして、今日の訪問。
おばあちゃんの事と、遺されるだろうAちゃんの事を思うと、胸が痛くなった。
(…こんな俺でも、Aちゃんの力になれるだろうか)
ふと、そんな事を思った。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時