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一旦、何処かのお家の屋根にたどり着いた後、うらたさんは私を簡単に抱え上げた。
「ひゃ、」と思わず声が出る。
男性に、いわゆる姫抱きをされるなんて、今までにない経験だった。
そんな私の様子をまた満足そうに見て、うらたさんはまた移動を始めた。
トン、トン、と、住宅街の家々の屋根を時々足場にして大きくジャンプする。
「あ、あの、重くない、ですか」と、ジャンプの衝撃の合間に聞いてみたけど、「ぜーんぜん。俺のこと何だと思ってんの」と軽く返されてしまった。
怖くて、不本意ながらも彼の首筋に顔を埋めているから、あまり風景が見えてない。でも風を感じて、かなりのスピードで移動している事が分かる。
また少し怖くなって、彼の服を掴んでいた手を、彼の首へ回した。
「…大丈夫だよ」と、また、優しく落ち着いた声が聞こえた。やまだちゃんも一緒に楽しそうにきゅ、と鳴いて、また安心できた。
彼となら、何処へでも行けそう。
…とは、思ったものの。
「ちょっと、大きく飛ぶから」と言われ、間もなく、ぐんっと上昇するような感覚になり、また悲鳴を上げた。
ようやく目的地?に着いたのか、何処かのビルの屋上へ降り立ったうらたさんは、私を腕の中から開放してくれた。
足が地面に着いて、少しホッとする。
と同時に、包まれていた温もりが急に離れたので、秋の夜の空気に、寒さと少しの寂しさを感じた。
うらたさんは、「A、ほら、こっち」と言われるまま、私を屋上の手すりへ誘導した。
「上、見てみろよ」と言われ、また素直に上を向くと。
「綺麗…」
星空。
高い建物の上から見ると、普段地面から見ているものとは違って見えた。
本当に、手が届きそう。
思わず手を伸ばした。
「お星様が、捕まえられそうだね」
(………ん?)
自分で発した、子供みたいな台詞に、何かが引っかかった。
昔、同じ言葉を、誰かに言ったような…??
「やっぱりお前、あの時のガキか」
隣に居るうらたさんが、私の言葉と、その後の表情を見て、目を細めてこちらをじっと見た。
その優しい視線に、昔の記憶が呼び戻される。
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花夜 - ツンデレうらさん可愛いですね!友達から漂って凝る気配って坂田さんですか? (2021年12月24日 22時) (レス) @page16 id: 02079f421c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2021年11月4日 22時