君に幸あれその２《はたけカカシ》 (ページ5)

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第52話　故人の思い出話ページ5

「主…？」

　炎天下で木陰を探して火影邸の外で待機し、やがて、報告を終えた主が姿を現した。でも、そこに普段の微笑みは無い。彼女は一言『買い物に行く』と言って、隣に並んでついていき、山中花店で一つ花束を購入した主が向かった場所は墓地で、ある人の場所で歩みが止まる。

　桐生橘月。

　名字から考えて、身内だろうか。
　俺はそれを聞く訳にもいかず、ただ呆然と墓石を眺めている主の傍らに立ち尽くした。しばらくして、彼女に声をかける人間が現れた。若い男の主と同じ灰色の瞳を持っているが、若者特有の頼りなさは微塵も感じられない。彼と視線が合って会釈し、ナツキと呼ばれた男が花束を手向けた後で、主が口を開く。

「タツキの事、聞いたよ」
「そう。…A姉さんは、どう思う？」
「…雲隠れの連中は、クズだ」
「まさか、その一言だけで片付くと思ってんの？ここに咎める人はいないから、感情を表に出していいんだよ」
「駄目だ。ここは故人を偲ぶ場で、騒ぐ所じゃない」
「抑えるより、吐き出したほうが楽になる。我慢しなくても──」
「してない」
「A姉さん！」
「これ、置いていくよ。またな」

　彼を突き放すように言葉を吐き捨てつつ、ずっと片手に持っていた竜胆と白百合の花束を添えてからナツキに背を向け、俺は会話に加わる事なく一部始終聞き終えてから、再度会釈して別れる。墓地を去っても俺達は無言で往来を歩いていったが、流石に耐え切れず話しかけた。

「…大丈夫なの？あんな別れ方で」
「いくら従弟でも、あの場所で口論するつもりはない」
「…そっか」

　口論になるという事は、ナツキは兄の死。または死因に納得できないようで、そこからタツキの死が理不尽なものだと推測できた。片や、主は敵を屑と評して、激情を抑えている。感情の制御も忍であるには必要な事だろうけど、時には、ナツキの言う通り理不尽な事に対して、一人の人間として怒っても構わないと思う。そうしないのは何故かここで問い尋ねても、さっきと同じ問答になるし、ここで別の事に注意を向けさせた。

「ねえ、主。タツキさんは、何が好きだったの？」
「……唐揚げ」
「じゃあ、それ食べに行こう」
「なら、マサキ叔父上に作り方教わらないといけないなァ」
「誰？」
「ナツキ達の父君だよ。『お父さんが休みの時しか作ってくれないものなんだ』って、自慢して喜んでてさ」

　俺は、主が心配かけさせまいと気丈に振る舞う様子を見て、それに気づかぬふりをした。