俺の名前は師範じゃない。【鬼滅の刃】 (ページ31)

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伊黒side

『只今戻りました』

その声が聞こえて突進まがいの踏み込みをする。今日は前よりも帰りが遅かった。

「遅かっ、た、な…………」

戸を勢い良く開けて、その姿に目を見開く。

血だらけの隊服、同じく血だらけの俺があげた物の上に掛けられた朱色の羽織。

そして、その姿に似合わない下手クソな笑顔。

「…………とりあえず入れ」

今日は優しいですねぇ、と誰でも分かるような震える声。

とりあえず座らせて、今日何があったかを問う。

「何があったんだ、話せ」

相変わらずヘタな笑顔で言った言葉は、衝撃的だった。

『朝日が鬼になっちゃってて！しかも下弦だったんですよ？斬っちゃいましたけど』

幼馴染が、鬼になった

そして、それを斬った

きっとそれは、あり得ない程に辛い物なのだろう

「………そうか」

『これ、朝日の羽織なんですよ』

掛けていた羽織をつまむ。その手だって震えてるじゃないか

『報告書とか書かなきゃいけま_____』

「良い、何もしなくて良い、もう喋るな」

え？と首を傾げるA。

もう、やめてくれ

俺が見たいのは、ホンモノの笑顔なんだ、

その下手くそな笑顔じゃない

「いつまで笑ってるつもりだ」

笑うのであれば、心の底から笑っていて欲しい

そのために涙が必要なら、苦しみが必要なら、それも全て受け入れてやるから。

『何、言って………っ!』

他には誰も居ないのに、ぼろぼろと止め処なく溢れてくる涙を隠すようその小さな体を胸に収めた。

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