俺の名前は師範じゃない。【鬼滅の刃】 (ページ29)

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廿玖ページ29

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『あなた新入りでしょう？いつ鬼になったの？』

下弦とはいえ十二鬼月。流石に一筋縄ではいかない

「そんなの忘れたよ、でも最近って言うのは事実だね、腹立つけど」

鬼になったら口が悪くなるのかしら、私も腹立つ。

『誰に鬼にして貰ったわけ？』

「上弦の壱の黒死牟様だよ！あの御方は素晴らしいんだ」

緩い攻撃を躱しながら目を見開く。

上弦の壱。十二鬼月のトップ。

何故、そんなやつと朝日が出会ってしまったのだろう

『君、もしかして柱？強いね』

「今更気付いたの？遅いね」

そう、遅いよ

何もかも。

『ごめん、朝日』

その首に私の刃が食い込む。そしてあっと言う間に離れてしまう首と胴体。

今まで何百と鬼の首を斬ってきた

それでも、こんなに悲しくて、怒りでいっぱいで、辛い鬼退治は初めて。

「おい、嘘だろ………？」

『ごめん、嘘じゃ無いの』

ごめん、救ってあげられなくて

ごめん、守ってあげられなくて

私は何のために鬼殺隊に入ったの？

私は何のために柱になったの？

何のために強くなったの？

『最期まで、思い出してくれない？』

そのヒラヒラと散っていく体に手を伸ばす。

『お願い、思い出してよ』

最期にもう1度、もう1度だけ

Aって呼んで欲しいの

あの、一切曇りのない澄んだ瞳で。

『ねぇ、朝日』

そう呼んだ瞬間、朝日の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

「俺、俺っ、何してんだろ」

ごめん、ごめんと涙が零れるその瞳は、青く澄んでいた。

『朝日、これだけは忘れないでね』

貴方を待ってる人が居る、愛している人が居る。

だから、来世では幸せにして欲しいの

「ごめんっ、A……………！！！」

私の名前を呼んで、無くなってしまったその体。

残ったのは、いつの日か私が初めて入ったお給料であげた朱色の羽織だけだった。

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