正義の破綻をじっと見ていた[川西] ページ14
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そこはユートピアであり、アルカディアであり、エデンであった。
一番端の、一番光の入らない薄暗い廊下の先。そこが彼女へと続く道。
間抜けな教師はそこの鍵が壊れていることなど露知らず、そこは彼女のエデンになっていた。
それを知ったのは一年ほど前。
悪い噂が絶えなくなった彼女のことを、その日はどうにも気になって、何となく目で追っていたらたまたま見つけた。
それまで別に彼女のことは特に気にしていなかったけれど、彼女のエデンを知った今は、今までなんとも思わなかった彼女に心惹かれてどうしようもなくなっている。
彼女は悪人だけれど、それは相対的に悪人なだけであって、実際のところ根底から悪人かと聞かれれば首を捻るような場所にいた。
少なくとも俺はそう思う。
しかし、そう思っているのはきっと多分、クラスで俺だけなのだろう。
そう思うようになったのも、この彼女のエデンに足を運ぶようになってからではあったけれど。
「……久瀬」
「なぁに、川西くん。また遊びに来ちゃったの?」
彼女は艶やかな黒髪を無造作に散らばして、屋上の硬いアスファルトの上に寝そべっていた。
乱れた制服が目に毒で、俺はそっと目を逸らす。
「お前また授業サボってどうすんの」
「どうって、どうもしないけど」
「退学とかなんねえの」
「ならないよ。だって私この学校にお金払ってるもの。……まあ、正確には私の親だけど」
「……今日は?」
「別に。内申点稼ぎだよ」
ひょいと起き上がった彼女は乱れた制服のボタンをゆっくり止めて、乱れた黒髪を乱暴に手ぐしで直した彼女は絡まった髪の毛に「痛っ」と悲鳴をあげる。
だから俺はそっと彼女の背後にしゃがんでその髪の毛をゆっくり解いてやった。
「ありがとう、川西くん」
「いーえ。別に、これくらい」
「そうかぁ、昔からずっと優しいものね」
「優しくないよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
「そんな、優しいけど優しくない川西くん。川西くんはいつもここに来るねえ、悪い子の私と居て楽しい?」
「まあそれなりに」
「へえ、変な人だよねえ。表情筋ちっとも動いてないけど、本当に楽しいの?」
「それなりに」
このやり取りも、全部全部いつも通り。
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つばき - 川西のお話、鳥肌が立ちました。陰のある恋をしてほしいっていうの、同意します…! (2021年2月14日 10時) (レス) id: f1e42d3762 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - リムさん» ありがとうございます! 頑張ります (2019年12月30日 22時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
リム - 赤葦の物語とっても切なくて涙が止まりません・・・泣 これからも頑張ってください! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 7cc2098249 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 天祢さん» そう言っていただけてうれしいです!個人的にも川西くんのお話が好きなので、刺さってくださる方がいて良かったなあと思います。更新を楽しみにして頂けるとうれしいです。コメントありがとうございました! (2019年12月14日 15時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
天祢 - 読ませていただきました!勿論全部のお話が素晴らしかったのですが、元々最推しなのもあって川西くんのお話が特に良かったです。深いなぁ…と思いました。更新頑張って下さい!楽しみにしています(^-^) (2019年12月13日 21時) (レス) id: dfbff6b887 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桔梗 | 作成日時:2019年11月16日 13時