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23最後の試合 ページ24

「おい、越前」




アメリカへ行く準備をしていると、桃先輩が家に来た。


急に試合しろ、とか言い出すもんだから、ラケットを手に、コートに立った。





「暇なんすね」




こんな風に毒を吐くことも、もうない。

きっと、日本で最後のテニスだろう。


静かに、瞼を下ろした。



この地面の感触。

ボロくなった、ネット。

錆びたラインに、汚れたボール。


日本の、この風。





マネージャーだったアイツは、俺の試合をいつも心配げに見ていたっけ。



恋人だから、と、俺を贔屓しないで、全員に平等に接してた。

俺はそんな真っ直ぐなアイツが。


テニスを、俺らを、俺自身を見てくれるアイツが、本気で好きだった。





過去形となったそれが、酷く泣いていた。







目をゆっくりと開けて、ボールを握る。


俺が、サーバー。



ラケットを右に持ち替えて、桃先輩との始めての試合を思い出す。



ツイストサーブ。

随分、慣れた。




トンットンッとボールをつき、空へと高くトスを上げた。




ネットを超えたボールは、桃先輩の顔面へと跳ね上がる。


あの時よりキレが数倍増したはずのボールは、やすやすと桃先輩に拾われた。





「お前ら、別れたんだって、なっ!」




ラリーをしながら、そんな会話をする。

ラケットにボールを当てる瞬間、語尾が強まっていた。





「そうっすけど!」




俺も桃先輩のようにストロークに合わせて語尾を強めた。

スイートスポットに当たる、心地いい音が耳を撫でる。







やっぱり俺には、テニスしかないんだ。




楽しい。


楽しい。




……寂しい。




『リョーマ!』



コートに響き渡っていた、アイツの声が聞こえた気がした。







ポトッ。


桃先輩の打った球が、ネットにかかる。

桃先輩はそれを拾おうともせず、口を開いた。




「それで、よかったのかよ」


「何……っ」



何言ってんすか。

仕向けたのは、アンタでしょ。


そう続くはずの言葉は出なかった。



桃先輩が、強く俺を瞳に映していたから。

酷く、泣きそうな顔をしていたから。









.

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りんね(プロフ) - 今日この作品に出会いました。それぞれの気持ち、考え方が共感できすぎて胸が張り裂けそうでした。気づけば涙が止まらず…素敵な作品をありがとうございます (6月4日 20時) (レス) @page40 id: b603ccdf4c (このIDを非表示/違反報告)
MOMO(プロフ) - やっぱりリョーマ君を推したいけど桃先輩の恋が悲し過ぎて自分の失恋なんかどうでも良くなってきた…(´・ω・`)桃先輩が1番辛いんだろうな…好きなのに想いを伝えられないのが1番辛いだろうし……伝えられたとしても罪悪感が凄いと思うそれなのに何も出来ないのが悔しい (2023年2月19日 21時) (レス) @page27 id: 086efc5a74 (このIDを非表示/違反報告)
- とても切ないお話で、なんだか胸が締め付けられたような気がしました。続編、読ませていただきます。 (2021年5月3日 23時) (レス) id: 4fb606c628 (このIDを非表示/違反報告)
筍(タケノコ) - すごく泣きました。特に、仁王くんのやつ泣いた。すごく切なくて、この作品好きです。 (2018年1月1日 14時) (レス) id: 65608ed6db (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - りりこさん» ありがとうございます。今読み返すと至らない点が多々ありますが、読んでくださった方に感動を届けられたならよかったです。未熟な私の作品に涙を流してくださってありがとうございます。精一杯頑張らせていただきます。 (2017年4月2日 0時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2014年2月8日 20時

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