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「頷かんでええ」
意外にも、笑ったのは彼だった。
頷けば、彼が真っ先に泣いてしまうと思ったのに。
私は彼を何度も拒絶し、その瞳から涙を流させた。
だから彼はとっくに覚悟を決めていたのだ。
1つ歳下の彼は、私よりずっと大人だったのかもしれない。
「ほんまかっこ悪いな、俺。
俺の事好きやろって聞いたんは、賭けや。
これで、終わりにするつもりやった」
罠に嵌ったのは私の方。
彼と決別できずに、泣いていたのは私の方。
本気で突き放しているつもりでも、実は期待してる自分がいて、掻き消せない想いを塗り替えるだけで精一杯だった。
私の初めて告げた想いは形を変えて、彼に住み着くのだろう。
「俺はもう、お前を諦める」
好き。
全てを削除してもいいとすら思い、告げた恋心は、声に出しても届かないこともある。
そんなことに、今更気づくなんて。
「……」
いつまでも反応を示さない私に痺れを切らせたのか、後頭部に回された掌が、私を強く引き、感情も飲み込むように唇を重ね合わせた。
終わりを実感した私は素直にそれを受け入れ、時間の流れ遮断するように目を閉じる。
「……っ好きや」
時折できる唇の隙間から、吐息のように甘く掠れた声が痛いくらいに耳を刺した。
私もだよ、そう返せたらどんなに幸せだっただろう。
でもこの想いを言葉にすることはできないから、だから代わりにその声を聞いていたい。
決して深くはならない、けれど酸素を奪い尽くすほど長く、悲しかった。
ああ、やはり彼は子供だ。
目を閉じてもわかる、舌に届くしょっぱさが彼の痕跡を深く私に刻みつける。
そっと目を開けば、伏せられた彼の睫毛に光る透明な雫が見えた。
私の瞳からも溢れるそれが光のそれと混じり合い、どちらのものか分からなくなるほど同じ色をしている。
もう一度目を閉じて、その背中に震える腕を回した。
好き。
好き。
好き。
声にはならない想いを必死に心で叫んだ。
明日なんて来なければいい。
ずっとこのまま時間が止まればいい。
この瞬間を渇望していた。
1人の女として、ただ彼を愛していた。
欲しかったのは、無数の愛じゃない。
ただ、貴方の、貴方だけの愛が欲しかったんた。
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はる - めちゃくちゃ面白くて短時間で一気に読んでしまいました。更新待ってます^ ^ (2022年1月25日 4時) (レス) @page40 id: aae421ef6f (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気読みしました!とても心が動かされました。続きがあったら見たいです。お体に気をつけて。 (2021年3月20日 2時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - 更新されてる〜!嬉しい!そして返信ありがとうございます!もう物語も終わりに向かっているようで、寂しいような、でもどんな結末になるか気になるような…複雑な気持ちです(笑)次の更新も楽しみです。こんなご時世ですので、お身体には気をつけて、ご自愛ください。 (2021年1月13日 2時) (レス) id: 4b5dbbee1a (このIDを非表示/違反報告)
yum(プロフ) - 久しぶりにお邪魔したら更新されていて、とても嬉しかったです。情景が浮かぶ描写、キレイなことば、涙があふれます。ただ、愛が欲しかった…本当に大好きです。 (2020年7月22日 15時) (レス) id: 59466218f8 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 名無し96398号さん» ありがとうございます!ご期待に添えるようにがんばります! (2020年6月22日 16時) (レス) id: 59abf06d02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SHINO | 作成日時:2017年4月5日 11時