薄桜鬼 宵闇に溶ける

時間２ ページ25

勢いよく刀を振っていると、隊士の一人が叫んでおりました。
組長が血を吐いている、とね。

ただなぜ手当てしないのか、部屋に行こうとした瞬間にわかりましたよ。

一部屋だけ、敵も何も見えちゃいないのに殺気だけはわかりましてね。
こう、じわじわした感じで戸から漏れてくる感じでして。

ああ、誰も入れやしないってえ思いましたですよ。


そんな殺伐としたところで、俺は逃げそこなった浪士三人に囲まれちまいました。
死ぬ。と、そう思いました。
そしたら目が急に真っ黒になった感じがして、いかん、痛みは無いが目をやられたと思って
血をぬぐおうとこすったらね、どこも痛くない。

目が見えるようになったら袖についているのは血。

影宮の斬った敵の返り血が俺の目をふさいでいたんですよ。

ハッとしたときにはあいつァ沖田さんのいるらしい部屋に飛び込んでいきまして。


沖田さんの、どうして来たんだ、って声がして間が開いたと思ったら
また沖田さんの声。影宮の名前を叫んでおりましたね。

それはもう必死な声で、組長のあんな声を聴いたのは後にも先にもこれが最後。

それだけ必死な声だったんですよ、本当に。

その部屋にいた敵は取り逃がして、影宮は外にふっとばされて
落ちたところを運よく山崎とかいう監察の一人に抱きとめられまして、九死に一生を得た。

額の金属はかち割られてまして、その後３日は巡察に来ていませんでした。

傷らしい傷も見当たらず。どういう力で飛ばされたのかは知りません。
長州なんかにも腕の立つやつがいたんですね。
組長も組長で深手を負ってらっしゃいまして、影宮Aと沖田総司を
相手にして勝てるやつがいるんだとみんな驚きました。


影宮は入ってきたのもいきなりで、平隊士での評判は最初は悪かった。
でもね、すこぶる強いんですよ。
沖田さんにはよく負かされてましたけど、真剣を持つと人が変っちまうんです。
すっと背が高くなるっていうかね。

女みてぇだと馬鹿にされれば稽古で滅多打ちにする。
声変わりしてねぇと言われれば相手がひいひい言うまで稽古の相手をさせる。

ホントに男前に見えました。
私闘は禁止でしたから、稽古で仕返しするしかなかったんですよ。
強くなけりゃできる芸当じゃないですけど。

なんだか本当にきれいな顔立ちでして、女装でもさせみればよかったと思うほどにね。

屯所に迷いこんでくる猫をなんだかかわいがっていまして、
またそれが絵になる。

不思議な男でした。

時間３→←時間

ラッキーカラー

あずきいろ

ラッキーナンバー

8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す