第5話 彼女の事情 1 ページ11
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「ん…ううん……」
次に千鳥が目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。眉根を寄せて瞼を開くと同時に、「気がついたか」と声がかかった。
瞳だけを横に動かし、声の主を確認すると、それは強化委員の染岡だったようだ。
「染岡さん……」
千鳥が体を起こそうとするのを、まだ寝ててもいいと染岡は止めたが、千鳥はもう平気ですからとその制止を振り切った。
「部員のみんなはどうしてますか？」
「今は練習している」
染岡の言葉に、窓の外に目を向ける。たしかにサッカー部員たちは各々練習に励んでいるようだ。
「すみません、染岡さんに付き合わせてしまって。」
「それくらい構わねーけどよ、練習には集中してくれよ。」
染岡の言葉に、千鳥は縮こまってごめんなさいと返す。特に、今日の練習は千鳥が中心なのだ。自分がしっかりしなければいけなかったのに、と千鳥はしょんぼり肩を落とした。
「何を考えてたんだ？」
「え？」
「練習熱心なお前が気をとられるなんて、よっぽどのことなんだろ。」
染岡に尋ねられ、千鳥は正直に答えるべきかしばし逡巡する。しかし、彼は強化委員なのだ。相談して悪いことなどないだろう。そう思った千鳥は徐に口を開いた。
「アツヤくんのこと、なんですけど…。」
「ああ…。」
「アツヤくんに、もっとみんなの輪に入ってもらいたくて。どうしたら良いかなあと考えていたら、つい夢中に……。」
「そうだな、今の白恋にはアツヤを引っ張っていける力が足りないからな…。」
どうやら染岡も同じことを懸念していたようだ。数秒の間、2人してむむむと唸る。
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
