12バク ページ12
嗅覚はちゃんと働いていたらしく、カラ松は俯かせていた顔をあげた。
すると、自分の鼻先におしゃれなティーカップがあったことにカラ松は驚きの表情を見せる。
「カモミールティーだ。良い香りだろう」
獏の言う通りティーカップに入っている茶色い液体からは甘酸っぱい林檎ような香りが漂っている。
その香りが鼻腔をくすぐるたび、凝り固まっていた心がほぐれていくように感じた。
「温かいうちに飲むがいい。味は保証しかねるが、まぁ不味くはないだろう」
「……いただきます」
差し出されたカップをカラ松が受け取るのを見た獏は椅子に座るよう促すと、カラ松は素直に従った。
その際に紅茶に砂糖とミルクはどうかと獏に聞かれ、カラ松はそれに首を振ることで答えを示した。
椅子に腰かけ、カラ松はカップに口をつけゴクリと紅茶を喉に流し込む。
「! 美味い」
「そうか。口に合ったようで何よりだ……おかわりがいれば言うがいい」
そう言いながら獏も自分の椅子を動かし、カラ松と向かい合うように腰をおろす。
そして、テーブルにステッキをコンコンと軽く叩き、カラ松と同じ色で同じ模様が施されたカップとポットを出現させた。
「……さっきから思っていたが、君のそれは魔法なのか?」
「ん? あぁ、これか。魔法といっても間違いではないが、我々獏は夢世界を自在に変化させることが出来るのだよ……こんな風に」
コポポポと自分のティーカップに紅茶を注ぐ獏に、カラ松が今まで抱いていた疑問を投げつけると獏はそう言い持っていたステッキをサッと振ってみせる。
すると、ちらほらと白いものが降り始めた。
「これは……雪? でも寒くない」
「あぁ。雪だけを振らしただけだからな。お望みなら気温も下げて見せるが」
「いや、気温は下げないでくれ」
「そうか」
獏は再びステッキを振ると、しんしんと降っていた六花はピタリと止み辺りには先ほどまでの穏やかな情景に戻った。
「すごいな」
「そうか? まぁ人間はこういう事が出来ぬから当然の反応か……さて、だいぶ落ち着いたようだな」
「あ、はぁ……」
「……よければ、話を聞かせては貰えないだろうか? お前が何故あの様な悪夢を見ることになったのかを」
カップの紅茶を飲んだ獏がそう聞くとカラ松は顔を暗くさせしばし悩む姿勢を見せる。
しかし、意を決したのかカラ松は獏の方を見据え語り始めた。
ティーカップに入った紅茶は、まだ冷めることはない。
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長月シキカ(プロフ) - 永久さん» はじめまして、作者の長月シキカです。コメントありがとうございます! 物語の最後の終わり方は中々に難産でしたので、永久様にそう言っていただけて本当に嬉しいです^ - ^ こちらこそ、最後まで閲覧してくださってありがとうございました♪ (7月28日 23時) (レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
永久(プロフ) - はじめまして! 永久です!今回この作品を読まして頂きました。とてもストーリーが出来ていて夢主さんのキャラもすっごく良かったです!最後の終わり方もとても心打たれるものでした!最高の作品を作ってくれてありがとうございます! (7月28日 21時) (レス) @page49 id: 41fe1dd09b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2018年6月25日 23時