【SEIMEI】12 ☆ ページ21
「あ…ゆづさん…。」
「ん?」
そんな中、思わず呼び止めたのは、行かないで欲しいのもあるけどもう一つ…。
「背中の羽が…。」
「え、これ?」
ゆづ王子が、羽が見えるように私に背を向けてくれる。
生まれたらすぐにでも見えなくなると思っていたのだけど、まだうっすらとその存在を確認出来ることに気付いたのだ。
「羽がまだ少し見えてるんですけど、触らせてもらってもいいですか…。」
おそらく数日もすれば完全に見えなくなってしまうだろう、私たちを繋ぐ漆黒の翼。
だからたとえ触れられなくても、しっかり目に焼き付けておきたかった。
「いいよ。」
ゆづ王子が深く椅子に腰かけて、私の方に背を向けた羽を一際大きく広げてくれる。
「わぁ…。フリーの最後みたい…。」
「こうやって手を上にするやつね。」
振り付けを再現するように、ばっと手を広げて天を仰ぐ。
「あの演技はもう、何もかもがゆづさんの世界でした…。」
あの、会場が揺れてるんじゃないかと思うほどの大歓声は、今思い出しても鳥肌が立つ。
「あ、アクセル見てくれた?俺ちょう頑張ったんだよ。」
「勿論です、あれは世界一の王さまのジャンプでした。」
魔界の王としての表現にふさわしい、世界で唯一、ゆづ王子だけが跳べるジャンプ。
「じゃあ4T3Aは?」
「ジャンプシークエンスですよね。もちろんかっこ良かったです。」
「え、勉強した?もしかして。」
私がさらっと答えて見せたので、ゆづ王子がきょとんと目を見開いた。
「ジョニーさんと佳菜子さまに色々教えていただいたんです。」
「そーなんだ。」
「7回転半を跳んだのは、ゆづさんと昌磨さまだけで…。」
「俺だって練習では跳んでるもん、3A4T。なんなら4T4Tだって、4T3A3Aだって跳べますぅ。」
口を尖らせながら顔だけこっちに向けて、間髪入れずに負けず嫌いな発言が出る。
「それはぜひ見せていただかなくては。」
「ふふ。期待しててください。」
でも皆知っている。ゆづ王子のスケートは、決してジャンプだけじゃないことを。
ステップもスピンも。全てがゆづさんにしか表現出来ない特別なものなのだ。
伝わって来るものが明らかに違う、別次元のスケート。
ふと、決意するように、羽がばさっと音をたてて羽ばたいた。
それをじっと見つめながら、この長い長い一日に起こった出来事全てに感謝したのだった。
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鹿(プロフ) - yuccoちゃんさん» 出産シーンはあまりリアルになり過ぎず、気を付けたのですが^^;羽生さんなら立ち合いそうじゃないですか?いつか本人も、親になってほしいです^^ (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - りんりさん» ありがとうございました!何度でも読んでください^^私も読みます!とっても長いので、時間のあるときにでも。いつでもお気軽にコメント書いてくださいね!妄想を受け止めてくださり、ありがとうございました! (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
yuccoちゃん(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても楽しく読ませていただきましたー!やっぱりゆづは王子だよね!(´ー`*)次の作品も楽しみにしています。出産シーンのゆづが駆けつけて来た時の表現にキュンキュンしました!(*´ `) (2019年6月23日 22時) (レス) id: f1f31ef53f (このIDを非表示/違反報告)
りんり(プロフ) - 初めまして。氷の国、ずっと楽しく読ませていただいていました。完結、おめでとうございます^^私ごとながら先日、FOIにて初めて結弦王子を生で見て、もう一度この小説を最初から読みたい気持ちに駆られています。次作も楽しみに読ませていただきますね! (2019年6月23日 17時) (レス) id: 6a04cdba45 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 心菜さん» やっぱりその時その時に羽生さんを投影させていると、楽しいです^^あれもこれもまだ書いてないエピソードもありますが、ちょっと気分転換もいいかなと、ちょっと強引に終わりましたが^^;また何か書ければいいなと思います! (2019年6月13日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2019年5月25日 9時