【SEIMEI】5 ★ ページ14
★ゆづサイド
医務室へたどり着いたら、廊下にたくさんの関係者がいて、今か今かと皇子の誕生を心待ちにしていた。
その人混みを掻き分けて入室を願い出ると、しーちゃんから意外とすんなり許可がもらえて迷わずAの側へ近づく。
そこには、額にびっしょりと汗をかいたAがベッドに横たわっていて、その疲労困憊の様子に心が打たれる。
「A、頑張って!」
「ゆ…ゆづ…さん。」
「大丈夫。俺がついてる。」
手を伸ばし、懸命に俺の名を呼ぶ妻に、言葉で励ます事しか出来ない自分が情けないけど、せめて安心させてあげたくてぎゅっと手を握る。
「来て…くれたんですね…。」
「遅くなってごめん、もうずっと側にいるよ。」
ふと、佳菜に預けた自分のブレスレットがAの腕に着けられていることに気付いて、いとおしさのあまりそれを手ごと包み込む。
氷の神様、どうかAを守ってください…。
無事に皇子を生めるよう、力を貸してください…。
そう願う間も、ずっと苦しそうにしているAが心配でたまらない。
痛みと疲れで気を失ってしまわないか。容態が急変しないか。そんなことばかりが気になってしまう。
そんな中、一瞬Aが顔を歪めて短い呻き声をあげた。
「……。」
そして次の瞬間、突如として医務室内に息を吸うような細い声が響き、徐々にそれが断続的なものに変わる。
「ふぇ…。」
それはまるで猫のようでもあり、人のようでもあり…。自分が今まで聞いたことのない生命の叫びを、この世に響かせているようで…。
「生まれた…。」
佳菜が恐る恐る近づいてきて、俺の肩に手を置きながら覗き込んでいる。
Aの表情を見ると、顔色は良いとは言えないけど、幾分穏やかな顔付きになっていた。
「王子さま、王女さま、おめでとうございます。」
さっきまでとは違い、笑顔で祝福の言葉をくれるしーちゃんに、今この瞬間、Aがこの世に無事新しい命を産み落としてくれた事を確信すると同時に、言い様のない嬉しさが込み上げてくる。
「……。」
言葉が出ないって、こういう時のことを言うんだな…。
スケートでどんな高得点を出したって、今のこの気持ちには敵わないし、今だかつて味わったことのないくらいの感情が止めどなく沸き上がってくる。
「ゆづ。よく見てあげて。」
そしてしーちゃんか簡単に処置してくれた、裸のまんまの我が子を見せてくれた。
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鹿(プロフ) - yuccoちゃんさん» 出産シーンはあまりリアルになり過ぎず、気を付けたのですが^^;羽生さんなら立ち合いそうじゃないですか?いつか本人も、親になってほしいです^^ (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - りんりさん» ありがとうございました!何度でも読んでください^^私も読みます!とっても長いので、時間のあるときにでも。いつでもお気軽にコメント書いてくださいね!妄想を受け止めてくださり、ありがとうございました! (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
yuccoちゃん(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても楽しく読ませていただきましたー!やっぱりゆづは王子だよね!(´ー`*)次の作品も楽しみにしています。出産シーンのゆづが駆けつけて来た時の表現にキュンキュンしました!(*´ `) (2019年6月23日 22時) (レス) id: f1f31ef53f (このIDを非表示/違反報告)
りんり(プロフ) - 初めまして。氷の国、ずっと楽しく読ませていただいていました。完結、おめでとうございます^^私ごとながら先日、FOIにて初めて結弦王子を生で見て、もう一度この小説を最初から読みたい気持ちに駆られています。次作も楽しみに読ませていただきますね! (2019年6月23日 17時) (レス) id: 6a04cdba45 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 心菜さん» やっぱりその時その時に羽生さんを投影させていると、楽しいです^^あれもこれもまだ書いてないエピソードもありますが、ちょっと気分転換もいいかなと、ちょっと強引に終わりましたが^^;また何か書ければいいなと思います! (2019年6月13日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2019年5月25日 9時