◆ ページ8
「…」
何も答えられなかった。まず状況が追いついていない。結婚なんて、まだ考えていなかったししかも相手がもう既に決められているだなんて。
確かにあの人は相当優秀で将来を期待されているかもしれない。ルックスも人より整っているかもしれない。
でも、そういう問題じゃないだろう。結婚っていうのはお互いに惹かれあった者同士にのみ許されていることじゃないの?
いくら優秀でも、裕福でも、整った容姿をしていてもそれイコール好きになる方程式だなんて存在しない。
こんな勝手に決められて、あまりにも理不尽だ。
「ごめん、簡単に聞いてええ話じゃないよな」
「いえ、そんなことは…こちらこそ、ごめんなさい」
私が何も話せなくなったのを見てまずい、と思ったのかセンラさんは申し訳なさそうに目を伏せた。違うのに、彼が負い目を感じることなど何も無いのに。
「すみません、何も答えられなくて…まだ、状況に追いつけていないというか何ていうか…」
「いや、Aが謝る必要なんてないですよ。いきなりやもん。そら誰だって困惑するよ」
「それもそうですよね…。でも私、このままじゃ確実にあの人と結婚するんです。」
お互いの両親も、あの人も私達が結婚をすることを前提に話を進めていた。それはつまり、私に拒否権はないって言っているようなもので。
自分の運命がこんなあっさり決められてしまうだなんて、思いもしなかった。
「Aは結婚、したくない?」
「いえ、結婚願望がないわけじゃないんです。ただ、やっぱりそういうのは好きな人とって思っちゃいます」
「…好きな人?」
「?ええ、まぁ」
そりゃ一生を共にする相手だ、好意がある人とがいいだろう。センラさんが聞き返した意図がよく分からなかったが深く追求しなかった。
「そっか…ごめんな、何も出来なくて」
「えっそんなことないですよ!私センラさんと話してるだけですごい救われてます」
これは本当の事だ。しかしセンラさんは悲しそうに笑うだけで何も答えなかった。
彼はそろそろ寝ましょうか、と言うと椅子から立ち上がってマグカップをおぼんの上に乗せた。
部屋から出ていく時に彼はこちらを振り返った。さっきの笑みを残したまま。
「おやすみ、A。…いい夢が見られるとええですね」
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時雨(プロフ) - おもちもちもちさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけるとこちらのモチベーションにも繋がりますのでとても嬉しいです(; ;)もう少しでまた更新できそうですのでそれまでもうしばらくお待ちいただけるとありがたいです^^* (2020年2月17日 17時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもち - やっっっっべぇめっちゃ好きです…(俺の語彙力飛んでった←)更新楽しみにしてるんで、無理のない程度に頑張ってくださいね!(?) (2020年1月17日 1時) (レス) id: b8721ff069 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - さくりさん» 返信遅れてすみません…!!コメントありがとうございます!!もう少ししたら更新が出来そうですので、それまでお待ちいただけるとありがたいです…!! (2019年12月5日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
さくり - 初めてコメントをさせていただきます〜、さくりです!この話自分にドストライクすぎてヤバいです…!更新待ってます!! (2019年11月9日 17時) (レス) id: 11e1fd3e2e (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - ぽんずさん» コメント&通知登録ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです、これからも頑張りますね! (2019年7月15日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
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