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君がいないと/志麻 ページ22

「A」


部屋のソファにぼーっと座っていた彼女に声をかけるとゆっくり振り返って志麻、と綺麗な声で俺の名を呼ぶ。


「ご飯、出来たで」

すると分かった、という返事と共に立ち上がったところをすかさずにAの手を取る。


「一人で行こうとすな、危ないやろ」

「…うん、そうだね…ごめん」


しょぼん、とするAが可愛くて抱きしめたくなったが今は夕食が最優先なので、ぐっと堪えてAがどこかにぶつからないように、慎重に、慎重にテーブルまで連れていく。


Aは目が見えない。

これは元からではなく、交通事故によるものだ。そしてそれはタチが悪い。元々見えていたものが急に見えなくなり、突然暗闇に突き飛ばされたようなものだ。


当然のようにAは絶望した。が、正直俺はラッキーだと思った。目が見えなくなればAがたった一人で生きていくのは難しいと思ったから。

そしてAの恋人だった俺はこれをきっかけにし、Aにプロポーズした。Aは何度も自分じゃ俺に迷惑をかける、と言っていたが最終的にはAが折れた。


それからというものAの身の回りの世話は全て俺がするようになった。周囲の人間からは大変だとか言われるけどそれが俺の喜びだ、勝手に決めないでほしい。

だってそうではないか。自分の好きな人に尽くせるだなんて喜び以外の何物でもないだろう。


それに、そうすれば、Aも俺と同じように…


「…志麻?志麻、どこにいるの?」


その声でハッとした。食事が終わりAをソファに座らせた後、洗い物をしていたはずなのだが、いつの間にか終わっていたようで、水は既に止まっていた。のはずなのにいつまで経っても自分のところへ来ないのを不安がったようだ。


「あぁ、ごめんな、今行くわ」

小走りでAの元へ行くとAを優しく抱きしめた。

「どっか行っちゃったかと思った」

「俺がA置いて行くわけないやろ」

「…うん、そうだよね」

ギュッと俺に回した手に力が入るのが分かった。俺が少し離れただけでこんなになってしまうAが愛おしくて俺も少し強めに抱きしめた。


「目が見えなくたってAはなーんも心配いらへんよ。…だって俺がいるもん」

「うん、ありがとう、志麻…お願いだから、私からいなくならないでね」

ほら、Aはもう俺がいないとダメになってる。


全て俺の思い通りだ、とAを抱きしめながらほくそ笑んだ。

作者より*追記あり→←抜けられない/志麻



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可愛い後輩ちゃん - なるちゃんの口調そっくりすぎるwwwww🍥🍥 (2022年3月27日 13時) (レス) id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
りゅー - まふまふさんの監禁系お願いします! (2022年2月13日 11時) (レス) @page25 id: 67f46d50a0 (このIDを非表示/違反報告)
月花月 - リクエストです、坂田さんの閉じ込める系お願いします (2020年7月6日 21時) (レス) id: fc0fb56c2a (このIDを非表示/違反報告)
蒼空@リス(プロフ) - いきなりですがリクエスト失礼します、志麻さんで服従系ヤンデレをお願いします!! (2019年7月28日 6時) (レス) id: 9910aa95ba (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - きゃらめるさん» 承りました!!元々、まふまふさん視点は考えてはいたのですが、都合上、本編に載せることが出来なかったので、載せる機会を与えてくださりありがとうございます…!!のろのろ更新ですが、精一杯頑張りますので、宜しければまた見て下さると嬉しいです〜!! (2019年2月14日 0時) (レス) id: 54c8766224 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:時雨 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2018年9月29日 23時

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