19話 ページ21
Aside
スコープ越しに見えるのはあの時と同じ白いバケモノ。肉眼でも巨体なそれは一歩足を進めただけで、道路や周囲の建物は煙をあげて潰れていった。
心の中で息を吐きながら、精神を研ぎ澄ます。
的が無機質なものから変わっただけ。それ以外は変わらない。
バケモノの目がこちらに向いた。
バンッ
.
.
.
白い巨体は青白い光を漏らしながら倒れた。
少し早くなった鼓動を抑えるように、胸に手を当てる。
このバケモノは自分の親を殺したわけではない。それでも、私という人間はバカだからほんの少しの幸福感に包まれた。
やっと殺せた、と。
無線機の奥から出水と太刀川さんの声が聞こえた。モールモッドの処理も無事終わったようだ。
自分の方も無事終わったことを報告し、太刀川隊として初の防衛任務は幕を下ろした。
作戦室の扉を開けると柚宇さんが迎えてくれた。太刀川さんは餅でも食うかと言いながら、作戦室の奥に消えていった。
「太刀川さん、結成初日で餅を喉に詰まらせて倒れるとかはやめてくださいよ。俺たちが変な隊入ったとか言われるのやなんで。
って、A聞いてる？」
出水に名前を呼ばれて、扉前でボーッとしていることに気づく。
『あー、ごめんごめん。ちょっとボーッとしてた。私、今日は先に失礼しますね！』
「あっ、おい！A！」
出水の声が聞こえたけど、私は足を止めることなく走った。ボーダーを出てもしばらく走っていると、警戒区域内にある公園に着いた。
無我夢中で走っていたからイマイチ方向とかよく分からないし、少し錆びついたブランコに座った。
静かな街中でブランコの音だけが響く。
ネイバーによって壊れかけた街灯は点滅しながら、あたりを明るくしていた。
すると、早い足音がした。
いつも甘えてばかりだなあと思いながらも、自分の淡い期待に答えてくれた彼の方を見遣る。
「1人で暗い中走ったらあぶねーだろ、ったく。」
『出水...。』
出水は私の方に足を進め、空いたブランコに座った。
「んで、今日はどうしたんだよ。この出水さんが話を聞いてやる。」
太腿に肘を置いて、私の方を見ながら喋る出水は随分と上から目線な発言だった。普段だったら少し怒ったり、呆れたかもしれない。
けど、今その喋り方をしてくれるのは出水なりの気遣いなのだろうと思うと胸の奥がじんわりと暖かくなる。
私はまた彼にーーー。
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作者名：いーす | 作成日時：2019年4月30日 17時
