【夢短編集②】 (ページ31)

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ut…蒸せ返るほど甘く(前編) ページ31

鬱は普段、冷たい。
だから私も冷たく接する。その方が楽だから。

「Aさ、ほんまに俺のこと好きなん?」

「驚き～、そんな事聞かれるなんて～」

「真面目な話、俺のどこがええん?」

どうした?
こんな事聞いてきたの初めてだし、去る者追わずの来る者拒まず主義でしょ?

「え…どこ…」

「嘘やん、そこ詰まるん?悲しいやら寂しいやら」

ふと煙草に手を伸ばして口元に持っていく、その姿に思わずキュンとした。

「あ、それ」

「あん?どれ?」

「手、かなぁ?」

「お前と付き合ってきて初めて知ったし手って言われて喜びようもないしそれなら顔って言われた方がまだ信頼できるけど信じられへんし性格の方が一番しっくり来るけど俺性格良くないしな」

「わかってんじゃん」

「冷た～い!!A、冷たい～!!たまらんな」

「いや、鬱が鬱陶し…あ、珍しいんだよ」

「鬱陶しいはやめろ、流石の俺も傷つくやろ」

雑誌を読んでいた私を無理矢理後ろから抱きしめて、肩に顔を埋めてくる。
何、珍しすぎて逆に疑わしすぎる。

「…ね、鬱。怒らないから言ってみ?」

「何を?」

「また浮気した?」

「してへんよ?」

きょとんとして言われる。この顔は多分本当。
じゃあ何で急に?

「俺が構ってほしがるん珍しいん?」

「珍しすぎて動揺中」

「たまにはええやんか、あぁでもそうか。Aは違うもんな」

「自己完結型ほんっとやめ…て」

流れるように床に押し倒された。
鬱は長めの前髪が眼鏡にかかり、それを払うように顔を振る。
その後に見つめられる目が、口元が、全部が私の心臓を狂わせる。

「攻められんのが好きやもんな?」

「ちょ、退いて…」

「なん、照れてんの?」

鬱の細く綺麗な手指に頬を撫でられ背筋がざわつく。
軽く爪を立てて首から鎖骨を滑らせ、その間もずっと細めの瞳に見つめられ続ける。

「油断してたやろ」

「急に何…」

「彼女抱くんに急も予約もないやろ、お前は俺に抱いてもらうんに予約するん?」

そう言って笑った瞬間、八重歯がちらりと見える。
なんて憎たらしい言葉を吐くんだろう。
"予約"なんて、まるで他にも待ってる女がいるみたい。

「…A?」

突然押し寄せた波のような悲しみに飲み込まれ、鬱の体の下で横を向き蹲る。
鬱は、私の背中を優しく撫でながら、甘い声色で心配そうに声をかけてくる。

「どうしたん、A?え、もしやお前せいr…」

一発、腹にぶち込んだら鬱は私の上に沈んだ。