キセキの話 ページ10
「聞いたぜ。同学年に『キセキの世代』って、つえー奴らがいるらしいじゃん。お前はそのチームにいたんだろ？」
話が長くなりそうだと眠くなってきたのか、彼女は欠伸をして背後にある網に寄っかかり寝る体制に入った。
「俺もある程度、相手の強さはわかる。やるヤツってのは、独特なニオイがすんだよ。が、お前はおかしい。弱ければ弱いなりにニオイはするはずなのに、お前は何もニオわねぇ。強さが無臭なんだ」
先ほど、記述をし損ねたがボールはすでに火神へ返されていた。
だが、再び火神はボールを『薄いの』へパスを出す。
「確かめさせてくれよ。お前が。『キセキの世代』ってのが、どんだけのもんか」
「………奇遇ですね。僕も君とやりたいと思っていたんです。1on1」
強さが無臭の彼、そして強さに飢える火神。
キセキの世代と呼ばれた彼の実力が、今示される時がきた。
「おい、これ持っとけ」
「……」
反応はない。
返事もない。
火神が上着を持って投げた先は、先ほどの白髪の彼女が座っている所だったが……春夜の冷たい風が心地よかったのか。
火神の補助バックを枕にして爆睡ちゃんをかましていた。
「……」
「……」
「なんで寝てるんだよ！」
火神がボールを置いて寝てる彼女を起こした。
「起きろ！こんなところで寝てたら風邪引くぞ」
「……おや、もう朝か？」
「ちっげぇよ！なんでこの短時間で寝れんだよ…」
「いや、すまぬの。どうも長話は苦手で…。何か今からやるのかえ？」
「今から1on1するんだよ」
「ほう。相手はその薄いのか？」
火神はもとい、一番驚いたのは『薄いの』と呼ばれた少年だった。
少年は驚いたように目を見開いて、彼女にこう尋ねた。
「僕のこと…見えるんですか？」
「ぼんやりだが姿は見えるぞ」
「そういうことではなく……」
この『薄いの』……もとい黒子テツヤは最初の部活の時に誰からも気付かれなかった。
それほどまでに影は薄い。
だが、ぼんやりとは言え彼の姿を視認できた者は健康体の人間にも不思議と視認されない。
むしろ超能力なのではという域に達するほどの影の薄さを、「ぼんやり」とだがという言葉に、更に耳を疑った。
「ぼんやり……というのは視力が悪いんですか？」
「そうだな。モノクルを付ければハッキリと見えるぞ」
「……尚更、どうして僕を」
「此奴、うるさいのう」
彼女はその答えに悩んだ。
答えに悩む質問なのか、と黒子は首を傾げた。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
