影の話 ページ9
「少し休もう。足が疲れてしまった。おや、偶然。そこにバスケットコートがあるではないか。私が休憩してる間、そのバスケットコートで練習したらどうだ？」
「んじゃ、お前は座って休んでろ。俺は少し体を動かす」
「あの頃から変わってないとよいが」
「バカにすんじゃねぇ。俺は変わってねぇよ。ただ、日本のバスケは弱すぎるだけだ」
バスケットボールを持ってドリブル、ダンクを決めた。
「ほほう、これ程とは。はじめて見たが、ダンクができるとはな」
「当たり前だろ！」
「伊達にアメリカで過ごしただけあって、豪気なことじゃ」
「まだアメリカの方がマシだよ。日本のバスケは話になんねぇ」
「そうか。私も随分と此処におるが、強い奴らは確かにおるぞ」
「本場のアメリカには遠く及ばねぇだろ」
「それは分からん。やってみなければ分からん。が、お主も聞いたであろう？『キセキの世代』」
「ああ、なんか先輩たちが言ってたな」
「奴らは、お主よりも強い。半人前のお前ならば、こてんぱんにやられてしまうだろうよ」
ゴールポストにボールが入る。
火神の体が震えきっていた。
「へー……そりゃ燃えるな。こてんぱにやられる、だって？いいぜ、やってやろうじゃねぇか！」
「ふふふ、暑苦しいの。そうは思わんかえ？先程からそこにおる薄いの」
視界が少し揺らぎ、シュートしたボールが外れると、そのボールは地面に転がることなく、人の手の中にすっぽりと収まる。
火神の記憶だと先程まで人が立っていたと言う認識は無かった。
突如現れた男、彼女は『薄いの』と言っていた。
そして火神には『薄いの』と言われる誰かが皆目見当が付かなかった。
「お前……いつのまに」
「どうも」
「何やってるんだ？」
「君こそ何やってるんですか？」
「別に、何もやってねーよ」
２人の間に沈黙が走る。
彼女も影を薄くして、２人の間に挟むことなく会話に耳を傾ける。
「……俺は中二までアメリカにいた。こっち戻ってきて愕然としたよ。レベル低すぎて。俺が求めてんのはお遊びのバスケじゃねぇ。もっと全力で血が沸騰するような勝負がしてぇんだ」
「……」
薄いのと呼ばれた少年は、その言葉を聞いてもなおじっくり火神を見つめるのみだった。
その様子に不信感を抱いた彼女は、彼のことを見ていたが特に何かをするわけでもなく彼女は早くにその不信感を解いたのだった。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
