鞭の話 ページ7
「ならば、私はお前を許せばいいのか?」
「っ、許して、ほしい」
「許したところで、お前は柵の囲いもない場所で再びバスケをするのだろう?」
昨日とは打って変わって、彼女は恐ろしかった。
確かに火神がいた場所は柵が立てられてないバスケットコートだった。
無法地帯のような場所で、人目のあるところから死角になっている。
数日前に遊んでいた子供たちは、上級生がいるからとあの場所へやってきたのだった。
そこはガラの悪い連中が屯しており、中にはバスケを行っていた児童が失踪するという事件も起きている危険な場所だということ。
火神たちのいる学校では、そこには立ち入らないよう注意喚起をしていた。
それを破って、火神たちはバスケをしていた。
「あの時は……仕方なくて……」
「仕方なくば、あのような場所でバスケをやっていいのか?……あそこはな、助けを求めても直ぐに路地裏へ連れ込める。お前がどれだけ助けを呼ぼうと、誰も来ない。そうした子供がどうなったか知ってるか?」
ひどく凍えた声音に背筋が冷えていく。
「どこを失ったか、教えてやろうか?」
そう言って体の部位を示すような仕草をして、いやでも何処を失ったのかを想起させた。
「……そんな怖い場所だったんだな」
「その通りだ。警察も巡回しているが、奴らの方が百倍賢い。狡賢いと言うべきか、警察が巡回してる時間を熟知している。そこで子供はな、失踪として処理されるのみ。誰も見つからない、誰も助けはこない。二度と、バスケはできない」
「………」
言葉を失った。
ならば、何故あの時に彼女たちあの場所にいたのだろうか。
「なんで、お前らはいたんだ?」
「何故だと思う?」
不敵に笑みを浮かべると、もしやと思い更に言葉がでなくなった。
子供の想像力は豊富だが、彼女たちは曖昧な言葉にしたことで余計な恐怖を火神に植え付けた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
思わず涙を流して崩れ落ちる様に、彼女はようやく穏やかな表情になった。
その声を聞きつけ、師匠が駆け寄ると彼女をキッと睨む。
「コイツに何しやがった?」
「お前が此奴の保護者か?」
「保護者じゃねえ。コイツらの師匠だ。だが理由もなく子供を泣かせていいわけねぇだろ」
「ならば童、己がいかに恐ろしい場所でバスケをやったのかを話してやれ。お前はそれを学校に連絡しろ。それで、許してやる」
彼女はそのまま、泣き崩れる少年を励ます事なく背を向けて立ち去った。
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作者名:ほんばし | 作成日時:2022年5月6日 16時