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飴と鞭の話 ページ6

「……わざとやったんじゃねぇ」


「ああ、そうだ。わざとじゃないのは、私もこいつもわかってる。なんならコイツは必要以上に怒りすぎだから別に許さなくてもいい。……けど、怖かったよ」


こてんと首を横にして、しっかりと反省を促す。
おそらく怪我したかもしれない彼女は決して怒ることなく、冷静にその言葉が出るのを待った。


「チッ、おっせぇんだよこのガキ……。さっさと謝れっつってんだ!」


「!!……ぜってぇ謝んねぇ!」


火神はそう宣言してボールを持つと荷物片手に彼らに背を向けて走っていった。


「逃げやがったあのガキ!待ちやがれ!!」


その日以来、彼らと出会うことは二度と無かった。
だが火神の記憶にはあの時の言葉が今でも脳裏に流れる。


《なら私が怪我をしたら、こいつのせいか?》


気付いていた。
不注意で周りをよく見てなかったこと。
子供だからと、怪我を負わせていいわけがない。
そのことを、彼は師匠に話すと拳骨をくらった。
師匠からも、仲の良い子からもキツく叱咤を受けた。
その数日後のことだった。


「あ…」


つい先日、火神たちの不注意でボールが当たりそうになった少女だった。
火神はその姿を見るなり、辺りに前にいた男がいないかを確認してから近寄った。


「……あ、あの……」


だがいざ、謝るとなると相当な勇気が必要だ。
前は逃げてしまったが、師匠と仲の良い子から反省と謝罪を促されて渋々といった様子だった。
だが彼女は小さい声に気づくことなく、バスケの観戦を楽しんでいたのだ。
小さい声なら気づかなくてもいいか……と思ったが矢張り謝らないのは何処か気分が悪い。


「あのっ!!」


意を決して火神が大きな声をあげると、少女は気づいた。


「……あの時は、ごめん……」


少女は少しして口を開く。


「それは何に対しての謝罪だ?」


その言葉に、火神は胸を射抜かれる。


「そ、それは……」


自分達の不注意で、相手を怪我させてしまいそうになったこと_そのことを言いたいのに震えて口が回らない。


「そもそも、お前はなんだ?いきなり声をかけられ、謝罪されても困る。何が目的で、何の為に謝罪をしているのか、もう一度名乗れ。はじめからやり直し」


あの時の、と言い掛けたが有無を言わさず。
火神は再度、息を呑み込みこういった。


「俺は、数日前にお前と会った!お前は俺の不注意で怪我させそうになった!だから、それを謝ってんだ!!」


彼女はそれを聞いてふっと笑った。

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作者名:ほんばし | 作成日時:2022年5月6日 16時

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