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桃井の話 ページ48

景虎が去って、一難去った彼女に襲い掛かるのは一難。
今度は愛らしい声をした女性の声が彼女の真上から降りかかる。


「何をしてるんですか?」


「物事尋ねる時は自分から名乗れ」


あまりにも冷たい対応に、女性は戸惑うも彼女は再び誰かと缶コーヒーを口にした後に見上げた。
そこにいたのは、可憐な少女。
女の子らしい桃色の長髪、桃色の瞳。
パステルカラーが良く似合う体付きの良い少女だった。


「はじめまして、桃井さつきです。麗白雪さん、ですよね?」


「よく知っておるの。その通りじゃ」


「知ってますよー。バスケの試合を欠かさず見に来てくれる、謎の多い女性として有名ですから」


「そうか……。世を忍んでいるつもりだったが、やはり目立ってしまうのう」


桃井は思う。
その姿で忍べているのか?と。
彼女は自分の容姿に自覚的で、尚且つ世を忍べるほどに器用でもないことは知っている。
すべて心無くわざと言っている。


「ふふ。麗白さんって、面白い方ですね」


「お主もな。何を思ってかは知らんが、何をしに此処に来たのだ?」


「何って、テツ君に会いに来たんです。決勝リーグまで待てなかったんです」


「ほう……」


彼女は手を止めて文章を保存すると改めて桃井を見つめる。
絹のようにさらさらとした髪、全体的に丸っとした雰囲気。
おっとりとしていて、何処か自覚的である容姿。


「黒子の彼女か」


「そうでーす♡」


「黒子もやるのう。お主のような高嶺の華を射抜くとは」


「そうですか?私、高嶺の花でもないですよ。至って普通の高校生です」


「謙遜せずとも良い。己を知るのは恋をしていく上で尤も大事にせねばならん。相手に好かれたい、喜ばれたい。そのために努力を惜しまなかった賜物がお主じゃないかえ?」


「ほ、褒められてるんですかね……照れちゃうな」


もっともこれは彼女の本音であるが、そこまで褒められるとは思わず桃井は照れてしまった。


「好きな男に好かれたい、その気持ちはよう分かる。そのために、どんな形であれ、努力を惜しまぬ女性は凄まじく美しいものじゃ」


「はぁぁ…何だか恋愛のスペシャリストって感じですね!」


「これでも過去に彼氏はいたからな。もう別れたが」


「え?なんで別れたんですか?」


「他人の別れ話を聞くのは無粋なことじゃ」


「へえ…愚痴った方がいい事もありません?」


「すまんな」


彼女は缶コーヒーを一気に飲み干して、その苦さに顔を顰めた。

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作者名:ほんばし | 作成日時:2022年5月6日 16時

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