訃報の話 ページ46
その日、彼女はセキュリティの高いマンションから出て行こうとすると携帯が鳴った。
彼女の電話番号を知ってる人は限られてる。
携帯を開くと、すごく嫌そうな顔をした。
嫌いなものを見た時の子供のように分かりやすかった。
「……
『わあ、やっぱり変な言葉遣い。面白いよ』
「そうか。切ってもよいな？」
『ああ、待ってください。まだ何も言ってないじゃないか。私がなんで連絡かけてきたのか、もうちょっと深く掘り下げてくれてもいいじゃないですか…？』
胡散臭く、腰が低めな印象を持つ言葉遣い。
彼女の兄は冷たくあしらう彼女を何とも思わず、おろおろとした様子で窘めた。
「分かった分かった。それで、何の用じゃ？」
『実はね、昨日の午前５時４９分頃かな…１５時４９分頃だったかな？』
「それ大差ありすぎるだろ」
『父君がご臨終してね。それで、君にも一応報告しとこうってこと』
「そうか。ならば、切るぞ」
『待って待って。これからこれから』
冷たくあしらうのは当然の如く、まだ話を続けるのかと携帯をキッと睨んだ彼女は渋々、兄の話に耳を傾ける。
『父君の盛大な葬儀にスノウは出なくてもいいです。ですが、久方ぶりにきょうだいとジャンクフードを食べながらコーラをいっーぱい飲んでドンちゃん騒ぎしたいなって』
彼女の兄は非常に庶民的だ。
ちゃんとカロリー計算がされて、適度に焼かれたお肉よりもぎっとぎとの油で揚げられたフライドチキンが好きでは。
どんな高級なワインよりも、甘くて弾けるコーラのようなジュースが大好き。
なのに、肌は荒れず太りもしない。
だがお抱えのシェフは、ちゃんと自分の体のことを考えてるから仕方なく食べる。
そんな考えを持つ男である。
「それは良いな。……兄様は発想は陳腐じゃが、それもよいの」
『これでも今を生きる若者です。君が年寄りすぎるんじゃないですか？』
「やかましい。口調は私が好き好んで言っておるだけじゃ」
『君はもう少し気楽に生きてていいと思います。ただでさえ』
「兄様」
食い入るようにして言葉を挟んだ彼女に、兄は言葉を詰まらせて少ししてから吐き出すように言った。
『わかってますよ。父君のことについては私に任せてください。わかってると思いますが……』
「余計な口出しすんじゃねぇよ。分かってるから」
地を這うような低い声に兄は臆した、
携帯を切ると、彼女は学校へと向かう。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
