育てる話 ページ45
この先生は、少し前まで名のある学校へ在籍していた。
だが彼女は1年経ってから別の場所へ赴任されてしまった。
そんな彼女は教師としての最適解を見つけ出そうと彼女から情報を聞き出し書き留めていた。
「お主は教師として、生徒に学ぶことの大切さを教えたいのか？それとも、学ぶことの大切さの、己の持論を聞いてもらいたいのか？」
彼女の言葉に実習生は何も言えなくなった。
生徒とは言えども、学ぶことの大切さを自分の言葉で告げたい想いはあった。
だが、その全てが無駄だと言われてしまうのは怖かった。
何のために教師という立場にいるのか、少し戸惑いを感じる。
「一方通行の話を誰が聞くものか。つまらん」
だが彼女は忖度なくそう言ってしまう。
そうしてしまえば、自信を失ってしまう。
「教師と生徒は対等じゃ。学ぶ者と学ばれる者。大人になれども学ばなければ、学ばない者から学ぶものなどなかろう。お主はちと、生徒に歩みよりすぎじゃ。身体が保たんだろう」
「それでも、生徒たちに歩みたいのです」
「何故」
「私の元いた学校には特別扱いを受けてた生徒たちがいたんです。ですが、ある日をきっかけにバラバラになりました。後悔したんです。あの時気がつけば、何か出来たんじゃないかって。だから、後悔したくないのです」
彼女の言葉に、麗白はため息を吐く。
「ならば、約束しろ。疲れたら休め。如何なるクズでも与えられた権利だ。休むな言う阿呆がいたら苦痛で顔を歪める演技もしろ」
「わかってますよ。……私って、どんだけ弱いと思われてるんですか？」
「自分の体調に気づかない奴は阿呆じゃ。疲れたら、相応の演技で休みをもぎ取れ。それぐらいの嘘は許されておるはずじゃろう」
「……なんか、ちょっと安心しました。最近教師として少し自信が無くなっていたんです。麗白さん、すっごい割り切ってますよね。私もしっかりしなきゃとは思ってますけど」
「しっかりせずとも良い。しっかりするのは金と法律とモラルだけでよい。むしろ教師は子供よりも貪欲でなくてはならん。恥や外聞、大いに結構。正論なんぞクソ喰らえじゃ」
狭い教室の中を教科書を持って、くるくると回る。
此処へ来て彼女はペンを取ってない。
そして、教科書を机に置くと座って上体を倒した。
「それより授業中じゃが、疲れたから寝る」
「寝てはいけません！」
実習生は彼女の体をぐらぐらと揺らした。
今日もこの教室は平和である。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
