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正邦vs誠凛の話 ページ37

なんと第1Q、誠凛は無得点。
正邦のされたい放題であった。
思いの外、苦戦していることに仰天していた。


「これはこれは……ちと厄介な相手じゃったかのう」


ビデオは過去のビデオも合わせて段ボールに入れても溢れるくらいに撮ってきた。
それでも、正邦は誠凛の得点を許さなかった。
ディフェンスが固い。
それに尽きる。


「4ファウルか。無様じゃのう火神」


「ちょっとー。自分とこのチームに言うセリフッスか?」


「お主らが何故、私の前に来てるかは聞かん。じゃが、考えて動かないようでは半人前じゃ」


「別に、バスケをしてる間はそんな難しく考えないっしょ。点が入れば、それで良いじゃないッスか」


「ならばお主も半人前じゃ。自ら強くなる可能性を捨てるとは、笑わせる」


「はあ?それ、どーゆーことッスか?」


「強さとは己の弱さを認めること。それを補ってくれる仲間に敬意を示すこと。これは誰もが言っておる陳腐な言葉じゃ」


「それは俺もよく聞くッスけど……意味わかんないッス」


「黄色いの。お主は愚直に自分の成長を信じたことはあるか?」


突然の質問に黄瀬は戸惑った。


「なんスか?突然……そりゃああるッスよ」


「ならば、どこまで駆け上がれるかを試した事はあるか?」


「そりゃあ…」


「だが、自分の相手が見つからないからと駆け上がる努力を止めたとこはあるか?」


「……まあ、あるっちゃあるッス」


「教えてやろう。本物の強さというものは『純粋』じゃ」


彼女は火神を見て、心の底から思ったことを口にした。


「己と対等なものがおらぬのなら、それを忍耐強く待つ。己と同格以上の相手が現れれば強くなるためには何も惜しまない。その純粋な心が、この世で最も強い」


「……あんたってさ、よく変わってるって言われない?」


「褒め言葉じゃ。間違ったことは言ってない」


「いやいや根性論にも程があるっスよ!?」


「まあようは自分次第ってことじゃ。後悔したくば何もせんでよい、後悔したくなくば行動せよ……そういうことじゃ」


「……はあ、負けなんて二度と味わいたく無いものを後悔しないってのは中々ヤバい奴と思うッスけど」


ここで漸く笠松が口を開いた。


「俺たちは、誠凛と公式で試合はしたことはねぇ。だが、いずれ戦うであろうときに、あんな結果は二度と味わいたく無い。そいつの言う通り、俺たちは愚直に強くなるしかねぇんだよ」


笠松の言葉に、黄瀬はこくりと頷いた。

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作者名:ほんばし | 作成日時:2022年5月6日 16時

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