観覧席の話 ページ33
トーナメント予選。
それは、東京都内にある３００あまりの高校のうち、上位３校のがインターハイ出場を決めることのできる狭き門。
その偵察隊として、麗白雪は各学校のビデオを撮っていた。
ただ、試合の様子をビデオで撮るだけなのだがリコが同行しているのは気に食わなかった。
「お主が来なくてもよいのだぞ。私でも、ビデオを撮ることぐらいは出来る」
「私は自分の目で確かめたことしか信じないわ。あっ、そこ拡大して」
「りょ」
しかし、今年は『キセキの世代』が入っているというからに、どの高校もそれなりの対策はしてきている。
留学生、中学で名を馳せた選手の勧誘。
心躍る展開に彼女は含み笑いを浮かべる。
「今年は荒れる事は間違いないと踏んでいたが……くふふ、楽しみじゃのう。どの高校が勝ったとしてもおかしくない」
「ええ。どの高校も油断はできないわ。ビデオを撮ったら、帰るわよ。インターハイ、雪はいつも通り観覧席で見てるんでしょ？」
「そうじゃの」
「側にいなくても平気？」
「年寄りとはいえ、介護が必要なほどではない。椅子に座るだけじゃからの。リコこそ平気か？」
「私がそんな柔な女に見える？」
「強くて聡い女性はステキだ。柔な女でないならば都合が良い。お主はそのままが魅力的じゃからな。私が男なら、リコを口説いていたぞ」
「(なッッんでそんな恥ずかしい口説き文句を平然と言えるわけぇ！？)…………なんかムカつく」
「ふふ、さて試合は終わったの。帰るぞ、ほれ」
さりげなくリコの前に手を差し伸べたが、差し伸べた手を真っ赤な顔で叩いた。
「自分で立てるわよ！まったく……」
「おや」
「ほら、早く帰るわよ。さっさと歩く！」
「了解」
リコの頭に手を乗せて、やわやわと撫でるとそれを振り払う。
それから交通機関を利用して帰ってきたが、彼女はその途中で返したのだった。
「……とゆー事があったのよ」
「……アイツそういうところだぞ」
「男前で如何にも慣れてそうな口説きだな…。そういうの、サラリと言えるのスゲーよ…」
帰ってきて事の顛末をバスケ部員に相談した。
身長も相まって彼女は下手すれば男よりも男前である。
危うく落ちかけたのだ。
「まあでも、雪ってたしか彼氏いたんじゃ…」
リコからそのことを聞いて反応したのは火神だった。
「えっ」
反応したのが意外にもバスケ一筋の火神だったので、バスケ部員はキラリと目を光らせた。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
