腹黒い話 ページ23
彼女の腹黒さは今に始まったことではない。
その証拠に彼女は周りからかなり距離を置かれている。
誰もが彼女に怪我をさせないように細心の注意を払い、誰もがカメラの邪魔をしないように気を遣った。
「椅子を持ってきましょうか？」
「飲み物、大丈夫ですか？」
「おい、ちゃんと前見ろ！」
「あっ、ごめんなさい、気付きませんでした…」
女王様気分とはまるでこの事かと。
海常の生徒、そしてバスケ部員たちは彼女に非常に気を遣った。
眼帯を付けてるということは片方の目は見えないこと。
杖を付いているということは、足は何らかの要因があるのではと考えてしまう事。
「気にしないでおくれ。気を遣わせてすまぬの。しかし、お前たちのレギュラーは強者揃いじゃ。誠凛にとっては、厳しい試合になるだろう」
「そう、ですね…！」
決してお世辞などで取り繕った言葉ではない。
だが第三者がどう受け取るかは、彼女は考えていない。
ただ自分が心から思ったことを言った。
どんな意図があろうとも彼女は正直に自分の心の声をそのまま口に出す。
海常の観客席、見学席はある意味、彼女が陣取ってるに相応しい雰囲気となってしまった。
そして試合が始まる。
両面でなく、片面で試合の調整を行う筈だった海常に業を煮やした火神が怒りの鉄槌を降す。
これまでの試合でゴールポストを取ったやつなど見たことのない彼女は大層驚いた様子でその姿をビデオに収めていた。
「やるのう」
妙に感心していたが、他の連中も同じ考えを持っていた。
というわけで、盛大な挨拶をかましてしまって結局両面での試合を行うこととなったが女子たちの声援が体育館内に響く。
煩わしくは思ったが、残念ながら黄瀬にはそういう魅力があるのだと思うと流石だと感心した。
「賑やかなのはよいことじゃ。羨ましいのう」
試合の流れは最初からヒートアップしていく。
取られた点は取り返し、取った点は取り返される。
そんな繰り返しを行ってる間に、タイムアウト。
ビデオを撮影し終えた彼女は、ビデオの充電残量を確認して見えやすい位置へビデオをセットする。
試合をしてる間、彼女はただ何も言わずバスケの試合を見下ろしていた。
それから、２年生が交代で入るようになって試合展開が変わる。
火神はディフェンスに専念、オフェンスは２年生が取り仕切るものの矢張り点差が縮まる気配はしなかった。
第４Ｑ、同点に追いつく。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
