海常の話 ページ22
黄瀬が誠凛に凸してから数日して。
練習試合を申し込んだ海常高校へと足を運んできたのは誠凛、そしてその中に麗白の姿はなかった。
「あれ、麗白は…？」
火神が辺りを見回していると、黄瀬が迎えにやってきた。
黄瀬の迎えにより海常を案内されると、海常の見学先から此方を見下ろす白髪の少女の姿があった。
彼女はビデオを持っており、どうやらただ見学するだけではなくビデオを撮れと命じられたらしい。
「あいつ一人でここまで来たのか……？」
そう思うと保護者のような庇護欲が湧き出でてしまい、彼女の無理な行動を咎めたくもなった。
だが、火神たちは今回海常高校での練習試合を行うのだ。
麗白に構ってる余裕はなかった。
そして、火神はあまり眠れてない。
「それよかあの女来てないんスね……マネージャーじゃなかったんスか？」
「麗白はバスケ部じゃねーよ。お前はあいつを酷使させるつもりか？」
「いや、そーいうつもりで言ったんじゃないッス」
「それに麗白はお前より一個上だ。先輩に舐めた口を聞くなよ」
「あー、黒子っちー、久しぶりッス！」
先輩の忠告を聞かず黒子の方へ近寄る黄瀬。
どうやら客席に来てる彼女には気付いてない様子だ。
それを他の部員が知ってて何も言わないのもある意味団結力が強いのか、意地が悪いのか…。
「あの子ならあっちいるわよ」
リコが気付いていない黄瀬のために観客席の方へ指を差した。
指を差された麗白は、リコが来た事で手を振るものの黄瀬が振り返った途端に手を振るのをやめてカメラをセッティングする作業へと戻るのだった。
「なーんか露骨に無視されたッスね」
あまりにも態度に出過ぎてて咎める気にもなれない黄瀬は、とりあえず訪問した誠凛を海常の監督へと自然な流れで紹介した。
そんな中で彼女は海常の選手たちからおもてなしを受けていた。
「あっ、すんません。前通ります」
「あの、大丈夫ですか？」
「気にせずともよい。私も気が付かなくすまないな」
行く人行く人が、その姿を見るなり腰を低くして謝りながら前は進む。
杖を付いた老人かと思えば、白髪の少女。
しかし明らかに見たことないその姿に、誰もが最初はギョッとしてそして何があったのかをその姿で察してしまう。
何も言わずとも、道を開けてくれて、下手な嫌がらせは社会的弱者にはし辛かったらしい。
(やはりこの姿は便利じゃのう)
心の中で腹黒く、そう北叟笑む彼女であった。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
