彼女の話 ページ13
「リコ。息災じゃな」
目を伏せて、優しい音色で労いの言葉を掛ける彼女を、何の疑いもなくリコは返事した。
「おつかれ！今日は上に行かないの？」
「もちろん、上には行く。それよりリコ、『キセキの世代』幻の
「えっ……そりゃ知ってるわよ！『キセキの世代』が一目置いた選手でしょ？」
「だが試合記録は残されていない。『キセキの世代』が一目置いていたにも関わらずだ」
「……？」
「喜べリコ、今日は面白いものが見れる。試合…するのだろう？」
「えっ、だからその詳細を教えなさいよ！」
「後々わかる。サプライズもそうじゃろう？」
「そうやってなんでも知ってる風に見せかけて……。勿体ぶってないで話しなさいよ」
「じゃあの〜。今日の試合、楽しみにしておる」
「ああ、ちょっと…！」
忙しい時間を狙っての声掛けはかなりイラつきが募るものだ。
杖を付いて歩いてる以上、無碍な扱いはできない。
それを分かっているからこそ、リコはこれ以上追いかけてこなかった。
「あっ、降りてきてたんだ」
そんな中で鉢合わせてしまった猫のような男に彼女は視線を向けると、これまた優しく微笑んだ。
「ふふ、こんにちは。今日も励め」
こつこつと杖を付いて歩くと、背後にいたおろおろとした男が手を差し伸べた。
垂れ目の眉が特徴的な高身長の男が、おそるおそる手を差し出したが彼女はその意図が分からず困り顔を浮かべる。
「水戸部が上まで連れてくってさ。転んだりしたら大変だし」
その思いにやっと納得した。
なるほど、自分の身を案じてのことかと彼女は水戸部の手に右の手袋をしている手を差し出した。
「頼んだぞ」
人の好意は甘んじて受け取り、上の見物席へ座ると水戸部と小金井に礼を言った。
「さて、お手並み拝見とゆこう」
怪しげな笑みを浮かべてバスケが始まる時、彼女はその期待以上の展開に胸を躍らせる。
始まったのは一年生と二年生の試合。
二年生は予選突破まで進んで決勝戦で敗退した実力者揃いの選手たちだった。
お陰で、一年生の主力として期待されていた火神はディフェンスが２人付かれてしまい、一時は諍いも起こりそうになった。
そんな中で転機は訪れた。
パスが周り自分の手元にボールが手の内に収まっている、そして回されたパスが誰なのかも検討が付かない。
そんな流れに動揺し、ガタガタに崩れた試合は一年生が勝利を収める形となった。
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作者名：ほんばし | 作成日時：2022年5月6日 16時
