【歌い手】あずけものは君との未来。【大型コラボ】 (ページ12)

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弐ページ12

そして僕は、君との未来を語る。
それが現実になるかはわからない。だけれども妄想だけでもいい。
　
　
いつか君を身請けして、君と街を歩く。
晴れの日は喫茶店に行って海の向こうの甘味を食べて、
雨の日は街に出て、雨に濡れた紫陽花を眺めて。
　
朝は君とテーブルで向かい合って、
夜は君と同じベッドで眠って。
　
　
　
　
それまでの遊戯費じゃ賄えないくらいの身請け代。
でもそれだけじゃ賄えないくらいの幸福が訪れるんだ。
　
　
　
　
「どうだい？」
　
「ふふっ、素敵でございます」
　
　
　
君が笑う。
あぁ、それだけでもう今日は満足できてしまうよ。

簡単にそれができないのは遊女であるが故。
この吉原のおきて。
遊女解放の時に君が解放されなかったのは、それほど君に魅力があるから。
誰にも渡したくない、僕だけのものにしたい。
　
　
　
　
「…そのためには、馴染みにならなくてはいけませんね」
　
　
少し視線を逸らして呟く君。
すこし身体が熱く感じるのは僕の錯覚ではないはずだ。君も、多分。
次回で馴染みとなる僕に、覚悟はすでにできていた。
馴染み、つまり床と共にするということに。
　
　
　
「最後に確認したいのだけれど、僕が嫌い？」
　
「いいえ、お慕いしております。貴方に触れたいと何度思ったことかしれません」
　
　
頭を深く深く下げるA。
君も、馴染みとなる事を望んでくれているんだね。
ならば迷う事はない。
　

夜は更けていく。
また新しい朝が始まり、吉原は閉じなければならない。
僕はここに相応しくない人間になる。
君と離れるのは辛いけれど。
　
　
　
　
「また来るよ」
　
「えぇ、きっと」
　
　
　
　
『どうか私に外の世界を見せてくださいまし』
　
　
　
その言葉は、叶わずに雨に溶けていく。