蒸留酒入りチョコレヰトの小夜曲【twst】 (ページ24)

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その翌日、始業前の廊下に恋人の小さな背中を見つけたフロイドは、

「あ～、シャコちゃんだぁ！ねーねー、今日の1限の選択授業どれにすんの？
　オレもシャコちゃんと同じの受けよっかな～。」

と、いつもの如くシノに背後から抱き着いた。

元来誰に対しても無礼講な彼は、その甘えたがりな性分もあって、彼女にこうしたスキンシップを図るのは珍しくなかった。

いつもなら、何だどうした、とシノも笑いながらその体躯を抱き返しただろう。

ところが、今日の彼女は何も言わずにフロイドを両腕で突き放し、そっとその抱擁から逃れたのだ。

少し様子のおかしいシノに違和感を覚えたフロイドには、彼女の表情が見えなかった。

だが、シノは徐ろにナイフのように鋭い紫紺の眼光で彼を見据え、

「……悪いけど、今のあたしは当分の間お前と仲良くできそうにない。」

と、低く淀んだ声でフロイドに宣告したのだった。

*

昨晩の来客用宿舎の荒れ様は、それはそれは凄まじいものだった。

シノは、コニーが声を対価にアズールと契約したと知った途端に、

「こんのバカ野郎っ！！」

と怒鳴り、彼女の横っ面をバチーンッ！！と張り飛ばした。

一度頭に血が上ったシノは、アンナが宥めたくらいではもう大人しくなどならない。

声が出せないコニーは打たれた頬を押さえてぐずぐず泣くことしかできず、それは正に地獄絵図だった。

「そこまでしてお前は何が欲しかったのか答えてみろよ、あ"ぁ！！？」

来客用宿舎の食卓が大型のテーブルであることは、一つの幸運だった。

これが卓袱台であったなら、激昂した彼女によってとっくにひっくり返されていただろう。

三人の中で最も腕力のあるシノが怒り狂っているのを正面から止めようものなら、命が保証されない。

怒り散らすシノに襟を掴まれ揺さぶられるコニーの様子を見かねたアンナは、ついに魔法石のついたロザリオを持ち出し、

「──『悪夢の呼び声(コール・オブ・ナイトメア)』」

「……うわっ！？

　おいアンナ、てめぇユニーク魔法使っただろ！！」

「ええ、しばらく暗闇(そこ)で頭冷やしててください。

　……さて、こうなったからには一つ残らず話してもらいますよ、コニーさん。」

と、レンズの内側で鳶色の双眸を光らせたのだった。