09.御伽の箱を開ける時。/S ページ35
朝食を済ませると、リビングはさっきの喧騒と打って変わって静寂が支配する｡
雅紀は店にある花の世話で、食事を済ませるとすぐに出かけたし
智君は朝食を殆ど食べることなく自室へと戻っていった｡
潤は残りの課題を済ませたらニノと出かけるつもりらしい｡
さっきからおれは食器が片付けられた広いテーブルに陣取り
洗い物を済ませ、冷蔵庫から鮭のほぐし身の入った瓶詰を取り出す、ニノの華奢な背中を見つめていた｡
｢ニノ、悪いね｡
休みだっていうのに、この後潤の買い物に付き合ってくれるんだろ？｣
｢あぁ…、そんなん別にいいよ｡
潤君が使ってる英語の参考書、今の教科書とあってないからさ｡
それに買い物の後、二人で遊んでくるつもりだから｡｣
ボウルのご飯を手際よく握ったニノは、おれに向き直ることなく海苔をガス火であぶってる｡
食べ易く握られたおむすびに海苔を巻くと
お盆にセットしてあったこぶ茶の缶と湯のみと一緒に
智君の席に置いてふわりと布巾を掛けた｡
｢……ニノは智君の好みをよく知ってるみたいだね｡
よく気がつくし、痒いところに手が届くみたいだ｡｣
｢アイツ見てると、世話してやんないといけない気になるっつーか｡
なんかほっとけないっていうか｡
よく考えたらオカシイよね？
オレよりずっと長く生きてんだもん｡
大人もいいとこなのに｡｣
苦笑を浮かべたニノは自分の席に座ると
｢翔さんも飲む？｣
おれの分と自分の分のお茶を入れ始める｡
｢確かに一緒に暮らし始めてからのアイツの事なら、様子見てればなんとなく判るけど｡
……オレ、智の昔のことなんて知らないし｡
『人間じゃないコト隠してたから喋ってくれないのかな？』って思ったんだけど｡
別にそういうワケでもなさそうだしさ｡
実際問題、全然判んないよ、智のことなんて｡｣
湯呑に指を滑らせるニノの顔は何処か不機嫌だ｡
ははぁ……、分かった｡
智君が自分のコト全然喋んないから、ニノのヤツ拗ねてんだ(笑)
｢智君、別に過去を隠してるワケじゃないと思うよ？
ああいう人だから、単にニノに喋る必要もないって思ってるだけだろ｡
……そうだ｡
ニノにだけ教えてやろっか？
あの人が雅紀にも絶対喋ってないだろう昔話｡｣
そう、それは｡
智君の心の琴線に触れる話｡
｢……いいの？｣
身を乗り出したニノにウィンクして、それはそれは遥か昔の御伽話を紐解き始めた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
