【企画小説】夢幻の如く【リレー小説】 (ページ9)

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9:男女、邂逅すページ9

《色欲の悪魔》

何度目か分からぬ、地にくずおれた妖の屍を見て、ルクスリアは長い睫毛を伏せ、荒い息を吐き出した。

腹部を深く、やられた。

べったりと赤黒く汚れた着物に舌打ちして、乱雑に片腕を脱ぐ。
ルクスリアの腹部を染める鮮血は、なまめかしいほどに白い肌をよりいっそう強調させた。

ルクスリアにとって、こんなに追い詰められているのは珍しいことだった。
主、それに仲間の安否が知れぬといった不安からか。
絆されたものだ、とルクスリアは自嘲した。

傷心に浸っていたルクスリアは、背後の屍が微動していることなど知りもせず。

グギャア、と妖が喘いだ。

「な…！？」

突然あらわれた、ルクスリアを覆うほどの大きな影に目を見開く。
振り向けば、そこには腕を振り上げた妖がいて。

ーー潰される。

ルクスリアは思わず目を瞑り身を縮めた。

「っ…、？」

しかし、いつまでたっても思っていた痛みはこない。

ルクスリアは恐る恐る目を開いた。否、見開いた。

信じ難くもそこに広がっていたのは、蒼の炎に包まれもがく、妖の最期だった。

ゆらりと灯るその炎は、まるで妖から命を吸い取るように息吹いている。さながら、神秘的だった。

ーーー綺麗だ。
ルクスリアは言葉もなく、火が終息するまでその光景を目に焼き付けていた。

そして残骸になった、妖の上に人影があることに気づく。煙でぼんやりしたその影に、ルクスリアは目を凝らした。

「…は、」

ルクスリアは衝撃に目を見開く。
何故なら、明瞭になった視界の先にいたのは、力にもなりそうにない華奢でか弱そうな、年端もいかぬ人間の少女だったのだから。

「…主はそこで何をしている」

凛とした声が木霊する。
少女の艶のあるポニーテールが風に靡く。
腕に纏っていたのは、妖を包んでいた炎と同じ色をしていた。

それが最初の邂逅。