小悪魔彼女のクエストは/sera ページ5
*
目が覚めると一部の記憶を失くし、さらには自分の恋人と名乗る彼女Aを、僕は初め酷く拒絶した。
当たり前だ。起きたら自分の家で慣れた鼻が違う匂いを捉えたのだから。
初めの印象は「鬱陶しい女」。
でも、日を重ねて僕の信頼する友だちが彼女に慰めの言葉をかける度に、僕の胸は訳のわからない痛みに脅かされて、脈を打つ。
しかし、それが知らないはずの彼女に対する恋慕であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。
運命なのか、と診察室で思った。医師に聞かされたのは、僕が彼女のことを忘れているということ。つまり、記憶喪失。
赤の他人から始まった新しい僕と君。けど、そのまま前の僕を辿るように惹かれていたみたいだ。本当、Aは魔法使いかなにかなのか。
それにそれが恋慕でないのなら、今、僕を衝き動かしているのは何なのか。頬を伝う汗を拭いながら、そんなことを考えた。
今日は上司に休め、と言われて1日お休み。理由は簡単、僕の誕生日だから。まぁ、普段真面目に仕事してるからっていうのもあるだろうけど。
久しぶりの休みにダラダラする予定だったのに、それを邪魔したのはうらたんからの一本の電話。
『Aが…朝から家にいねぇみたいで。お前何か知らね?』
知るわけない。だって僕は家でずっとAのことを考えて、ゴロゴロしてたんだから。
嫌な汗が背中を伝った。慌てて僕はスニーカーを引っ掛けて外を走り回っている。
誕生日なのに、何で僕が走り回らなあかんねやろ。放っといてもそのうちひょっこりプレゼント持って現れるんじゃないん?
そんな冷静な感情を僕はわかっていながら足を止めなかった。だって心配だから。それだけ。それ以外に、何か必要?
「………は…っ、A…ッ」
海辺に佇む影にそう叫んだ。彼女は振り向かずにそのままだった。
僕は走って彼女に近づくと、見慣れた笑顔でひとつ。
「__……あはは、意外と早かったね」
なんとまぁ腹立つ一言だろう。汗が顔や背中を伝って気持ち悪い。息も荒く言葉を発せない。なのに、その報酬はその笑顔と無責任な言葉。でも、それだけで十分。
僕は、苦労人やってわかってるから。
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作者名:参加者一同 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/seyu/
作成日時:2018年9月29日 11時