十七話 墓穴 ページ18
井上は少年二人を襖へと誘導した。その時一人の少年…Aは不機嫌そうに心臓もつかな…とぼやいた。
スッ襖を開けると幹部達が円になって座っている。
その中でも特に沖田がAの顔を見て生き生きと顔を輝かせた。そして、口を開けた。
「おはよう。夕べはよく眠れた?」
「おかげさまで」
Aは冷たい声で言い放ったが、つい少し顔を赤らめてしまう。それに対してふーんと笑う沖田。
(やめてえええ!その美声は凶器です。どはまりした私は給料の三分の一も貢ぎましたから!)
「みたいだね。顔に畳の痕がついてるよ」
「え!」
顔をすかさず抑える千鶴。
Aは千鶴の反応を見てにやにやと頬を緩ませた。沖田はAがひっかからなかったのが不服なのか口を尖らした。
「ちぇ…」
「………」
Aは三南が口を開く前に襖を閉めて、その場に座った。千鶴もAに続いて座った。
皆が黙り込むと唐突に近藤の自己紹介か始まった。叱られてものほほんとした近藤にAはくすりと笑う。
『マスター…』
「あ、気を付ける」
だけど、耳元で睡に注意され、顔の筋肉を引き締めた。やばい、やばい。
引き締めたものの、始まったのは千鶴の事情聴取だった。
斎藤の説明に
「私、何も見てません!」
と訂正する千鶴。
(うん、間違ってはないかな。でも、私の事はいわないでおくれ!)
Aは無言で祈る。
しかし、藤堂達が煽ると千鶴はすぐに祈りを打ち破り、墓穴をほった。Aは深い溜め息を吐いた。
「本当に何も見ていません!A君に目を塞ぐ様に言われたんです!」
「ほう?」
幹部の真ん中であちゃー、よりにもよってとAは頭を抱えた。目の前の土方の食い付きは獲物を見つけたライオンの様に目がギラギラしている。
さしずめ私は、草食動物であろうが。
「まあ、その話は後に置いとこっか。ところで、君の名前は?」
くすくすと笑い、沖田は話を変えた。沖田に称賛の言葉を心の中で言い、Aはほっ、と息を吐く。
「雪村 千鶴です…」
「雪村…網道ですか?」
「父をご存知で!?」
山南が呟くと、千鶴は大きく反応する。今までの経緯を話始めた。そして、千鶴は屯所に置いて貰えるようになったのだ。
(千鶴ちゃんは女だと驚かれていたけど、私は気付かれさえしないだろうな。なーんて…)
「さて、次は君だね?」
沖田は楽しそうに言った。
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作者名:刹那ハル | 作成日時:2015年1月15日 17時