十六話 井上 ページ17
「起きてたのかい?」
襖が静かに開いて井上源三郎が優しげな目でこちらを見る。千鶴はAに見せた笑みをなくし、警戒心を瞳の奥に宿らせた。
Aはへらへらと布団の上に座っていた。
「すまんなあ、こんな扱いで。今、縄を解くから少し待っといておくれ」
井上は縄をほどこうとして、総司のやつ…と呟いた。Aの縄を解くのは時間が掛かっていたので、よほどきつく絞められていたようだ。
(前科があるやつには、固く結ぶと。別に逃げないんだけどなあ)
Aは疑いは晴れないなと顔を暗くする。
違う事を考よう、と思うと次の台詞が勝手に浮かんでくる。それほどまでに薄桜鬼をやりこんでいた。ここで…確かお口ぺっ、だったはず。
しかし、口を塞がれていない事に気が付いた。
(ふーん、やっぱり原作とも違うか…少し行動に出てみようかな!)
「初めまして。AAと申します。まさか、新撰組に捕まるとは思いませんでした。あー…貴方のお名前は?」
「おや、威勢のいい子だね。私は井上源三郎。よくここが新選組だと分かったねえ」
「まあ、捕まる前に彼等は浅葱色の羽織を着ていましたので…」
「なるほどね。じゃあ、事情は分かっている様だしちょっと来てくれるかい?」
あっちと井上は指を差した。Aはこくりと頷いた。千鶴に大丈夫、と耳打ちをしてから、とぼとぼと千鶴とAは井上の後ろをついて歩いた。
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作者名:刹那ハル | 作成日時:2015年1月15日 17時