十五話 朝 ページ16
『…ター…スター、マスター!!』
「うにゃ。あと五分だけ…」
『寝てる間に操って色んなとこ触ちゃうぞー…』
「すいません! 今すぐ起きますともっ」
刀の声が聞こえて起きると布団の上で手首を縛られていた。腰にあったはずの刀も消えている。
「あれ、ここ何処? 睡はどこにいる?」
『新撰組の屯所。俺は刀でいると怪しまれそうだったからマスターの紐に身を置かせて貰っている。必要とあらば、刀になれるが…』
「懸命ではないな」
そういうことだ、と睡は力強く言った。
Aが周りを見回すと、隣の布団では千鶴が眠っていた。
「おい…ちづ」
千鶴を揺さぶろうとした手でAは慌てて自分の口を塞いだ。…いや、塞げないのだが。
睡は不可解なAの行動の真意を問う。
『どうしたんだ? マスター』
「いや、本来の俺ならこの子の名前しらないかなーっと」
『なるほどな』
案外頭の回転が速いなと感嘆する睡。
Aは、ははっと笑うと縛られた両手でまた千鶴を起こそうとした。
「おーい、君。起きて朝だよ?」
「ん…」
千鶴はゆっくりと目を開ける。Aは千鶴のぼんやりとした様子が可愛らしくてくすりと笑った。
「おはよう」
「あ、昨日の…おはようございます」
Aがにこりと笑いかけると千鶴は頬を赤く染めた。
すると、紐がヒューヒューと指笛が鳴らした。
『マスター、フェロモン漂わせた軽い男くさいぞ』
「うるさいな! 言っとくけど俺は堅実だから…」
睡を叩こうとしたが両手が縛られていて叩けない。
(どうにも、この縄が邪魔だけど取ったら殺されちゃうもんね。我慢我慢!)
Aの目の前ではキョトンとした千鶴ちゃんが。
(そりゃいたいよね。一人で喋ってるって…)
雰囲気を変えるべく、Aは布団から起きて正座をした。千鶴もそれに合わせて起き上がった。
「初めまして、でいいのかな?」
「え、はい…初めまして。昨日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。にしてもお互い災難だよね新撰組に捕まるとか。えっと…名前?」
「雪村 千鶴です!」
「千鶴ちゃん…。可愛い名前だね。俺はA。よろしくな」
ペコリとお辞儀をかわしてむず痒い初々しいカップルの様な感じが漂った。Aは確かに睡の言うことは間違ってないなと頷いた。
(あー、私は両手を縛られて何の会話しているんだろうー)
『くっさー』
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作者名:刹那ハル | 作成日時:2015年1月15日 17時