十四話 首根っこ ページ15
「……運の無い奴だ」
千鶴に刀を向けた影は、紛れもない新撰組副長、土方歳三だ。
Aは止めなかった。ここで千鶴が網道を探させてもらえるのだから。ここは、そそくさと逃げようとAは土方さんに皆が集中している間にそーっと逃げた。
…いや、逃げようとした。しかし、にこにことした沖田に首根っこを掴まれて逃げる事は失敗した。
(じゃあせめて、イベントだけは目に焼けつけておかねば！)
「いいか、逃げるなよ。背を向ければ斬る」
土方は冷たい声で言った。Aはその言葉にまんま自分のことだ、と心苦しくなった。未だに沖田に首根っこを掴まれている。しぶとく掴み続ける沖田の腕を見てAは小さく舌打ちをした。
土方は千鶴がこくこくと頷くと苦々しげに深い溜め息を吐いて、刀を納めた。
「え……？」
「あれ？ いいんですか、土方さん。この子、さっきの見ちゃったかもしれないんですよ？」
少し台詞がちがうが、沖田はAの首根っこを掴んだまま不思議そうに目を細めた。Aは美形達に囲まれてそれどころではない。心拍数が恐ろしい事になっていた。
「……いちいち余計なこと喋るんじゃねぇよ。下手な話を聞かせちまうと、始末しざるを得なくなるだろうが」
千鶴は黙り込んでいる。
「この子を生かしておいても、厄介なことにしかならないと思いますけどね」
「とにかく殺せばいいってもんじゃねぇだろ。それに、総司。おまえが手に持っているそいつは何だ？」
土方はAを指差した。美形に直視されてただでさえ心臓が凄いのに、より心拍数が跳ね上がった気がする。
「あはは。この子ですか？ 強いんですよ、この子。土方さん、斬っちゃうのは勿体ないじゃないですか？」
「つまりは、気に入ったというわけか…。一、どうだ？」
「殺すには惜しい存在かと思われます」
斎藤は、即答だった。やけに小柄な少年があの失敗作を自分に傷を一つつけずに倒したのが信じられなかったからだ。土方はますます眉間に皺を寄せた。
「……こいつらの処分は、帰ってから決める」
土方がそう言うとA達は屯所に連行された。Aは連行される途中も沖田に首根っこを掴まれながら震える千鶴の手を握って歩いた。
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作者名：刹那ハル | 作成日時：2015年1月15日 17時
