11.嫉妬 ページ11
マスターとマシュ・キリエライトに礼を言って、その場をあとにする。
できることなら廊下を駆け抜けたかったが、そんなことをすれば他の者たちに迷惑をかけてしまう。それはさすがに気が引けた。なにより紳士らしくない。
しかし、歩む速度はどんどん増していく。逸る気持ちを抑えるように拳を強く握りしめた。
一秒でも早く彼女に会いたい。そして確かめたい。私が求めているもの──その正体を。
***
見つけた。
Aの控えめな笑い声が聞こえる。彼女のとなりには黒髭がいた。彼も心なしか楽しんでいるように見える。随分と盛り上がっているようだが、一体何を話しているのだろう。
「A」
思い返せば、こうして彼女に話しかけるのは久しぶりだ。どんな反応をするのか考えると、少しばかり緊張する。
「バーソロミューさん?」
「ああ、久しぶりだね。実は君に話が……」
振り向いた彼女の姿に声を詰まらせる。
私が見込んだあの美しい瞳は、彼女の艶めく前髪の下に隠されていた。
けれど彼女の髪の長さでは少々足りなかったようだ。寄せ集めてなんとか片目だけを隠せている様は、頼りなく、そして不恰好である。
しかし私はそんな彼女の姿に目が釘付けになっていた。ちらりと覗く輝きが、胸をざわつかせる。
どうして私には見せてくれなかったのに、他の男──よりによって黒髭に見せてしまうのか。
彼女にとって私は特別な男なのだと、どこかで思い込んでいた。根拠のない自信は粉々に砕け散り、あとに残されたのは空虚な心だけ。
だがそれも一瞬のことで、空っぽの器にはどす黒い感情が注がれていく。とどまることをしらない思いはすぐにでも溢れてしまいそうだ。
「来い」
絞り出した声はいつもより低く感じた。Aの細い手首を掴み、引き摺るように歩き出す。
「あーあ、男の嫉妬は醜いですぞ」
──言われずとも、そんなことは自分が一番わかっているさ。
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星良(プロフ) - 爆死★さん» ありがとうございますッ!!!!! (2020年11月14日 19時) (レス) id: ca2b877203 (このIDを非表示/違反報告)
爆死★ - スッッッキ!!!!(スッッッキ!!!!) (2020年11月10日 17時) (レス) id: da8da72c3c (このIDを非表示/違反報告)
星良(プロフ) - 王のお話さん» ありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです!初めてのコメントで感動しました……貴方のそのお言葉がとても励みになります、本当にありがとうございます!!(ただいま新作を準備しております。お楽しみに!) (2019年8月23日 11時) (レス) id: fa3e8c95cc (このIDを非表示/違反報告)
王のお話 - 突然のコメント失礼します。率直に言いますととても感動しました!最初から最後まで話にとても夢中になりました!小説を読んでこんなに気持ちが昂ぶったのは久々で、とても楽しかったです!もし別作品を書く予定がありましたら是非読ませてください! (2019年8月23日 2時) (レス) id: d7d108a59e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星良 | 作成日時:2019年8月13日 13時