12.激情 ページ12
バーソロミューさんが怒っているところを見るのは初めてだ。普段から温厚な人ほど怒らせると大変なことになるが、彼もそういうタイプなのだろう。
震える声で何度呼びかけても彼からの返事はなかった。ただ、わたしが話しかけるたびに手首を握る力が強まっていく。怖い。つらい。悲しい。不安がないまぜになる。
ふと彼の歩みが止まった。彼とわたしの歩幅の差は大きい。ずっと小走りで着いて来たためすっかり息が上がっている。
彼は目の前にある扉を乱暴に開けると、わたしを部屋の中へと引き摺り込んだ。
そこは、全ての発端である場所──あの日に訪れた資料室だった。
部屋の中の景色はあの日と変わらないが、漂う空気は全く違う。
がちゃん。バーソロミューさんは部屋の鍵を閉めると、ようやくわたしの手首を解放してくれた。
「バーソロミューさん……?」
相変わらず返事はない。目の前にいる彼が、まるで知らない人物のように思えて怖くなった。
わたしが一歩後ずされば、彼はそのぶん距離を詰めてくる。
もともと広くない部屋だ。あっという間に、壁へと追い込まれてしまった。
冷や汗が止まらない。
彼はどうして怒っているのか。思い当たる節はある。あの日、わたしがバーソロミューさんに恋心を抱いてしまったときからというもの、ずっと彼を避けてきた。それが彼の気分を害したのだろう。
「どうして黒髭には見せたんだ」
「え?」
「以前、君にその前髪で瞳を隠してほしいと頼んだだろう?」
「そう、ですね」
「私の頼みは即座に断ったというのに、黒髭にはあんなにも簡単に見せてしまうんだな。君にとって奴は特別な男なのか?」
「ちがっ……ん!?」
違う。咄嗟に出た否定の言葉は、彼の唇によって遮られてしまった。
──キスされている。
重ねられた唇の熱がじわじわと全身に広がっていく。
海の色をした瞳が目の前にある。それは揺らぐことなく真っ直ぐにわたしを射抜いた。
すっと細められた双眸。同時にわたしの唇をなにかがぬるりと滑る。
「……っ!」
肌が粟立つ。彼の胸を強く叩いて逃れようと身を捩れば、ようやく熱から解放された。
「な、んで……こんな……」
脱力しきった体でなんとか見上げると、彼は悲しげに眉を下げていた。それはまるで、今にも泣きだしてしまいそうな子どものようで。
──どうして貴方がそんな顔をするの?
「Aのことが好きだからだよ」
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星良(プロフ) - 爆死★さん» ありがとうございますッ!!!!! (2020年11月14日 19時) (レス) id: ca2b877203 (このIDを非表示/違反報告)
爆死★ - スッッッキ!!!!(スッッッキ!!!!) (2020年11月10日 17時) (レス) id: da8da72c3c (このIDを非表示/違反報告)
星良(プロフ) - 王のお話さん» ありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです!初めてのコメントで感動しました……貴方のそのお言葉がとても励みになります、本当にありがとうございます!!(ただいま新作を準備しております。お楽しみに!) (2019年8月23日 11時) (レス) id: fa3e8c95cc (このIDを非表示/違反報告)
王のお話 - 突然のコメント失礼します。率直に言いますととても感動しました!最初から最後まで話にとても夢中になりました!小説を読んでこんなに気持ちが昂ぶったのは久々で、とても楽しかったです!もし別作品を書く予定がありましたら是非読ませてください! (2019年8月23日 2時) (レス) id: d7d108a59e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星良 | 作成日時:2019年8月13日 13時